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社説・コラム

『潮流』 核禁条約 多様な論点

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 今月3~7日に米ニューヨークの国連本部で開かれた核兵器禁止条約の第3回締約国会議を取材した。議場の雰囲気自体、核大国が幅を利かせる核拡散防止条約(NPT)と大きく違う。核兵器廃絶という目標を共有する国々の結束を感じることができた。

 特に印象深かったのは、締約国と世界各国の非政府組織(NGO)の代表らが実に多様な意見や報告を述べ合う場となっていたことだ。

 在韓被爆者は、朝鮮半島を植民地支配した日本と原爆を使った米国の双方の責任を追及し、声を上げた。米国の先住民居留地でのウラン採掘被害を告発する女性は、当事者の苦しみの由来を核兵器と原発とで区別できないと強調。原子力の平和利用を保障する条約前文を一部削除すべきだと訴えた。核被害とは何なのか。加害側に何を問うべきか。広島で欠落しがちな視点に気付かされた。

 一方、心に引っかかる発言も時折あった。例えば、複数の国の外交官が科学的根拠を持つ数字として「放射線を浴びた女児は同年齢の男児と比べ、生涯にがんを発症する恐れが2倍」と強調していた。締約国会議で核兵器の非人道性を語る際のキーワードとなっているが、事実だろうか。

 子どもや妊婦の被曝(ひばく)がとりわけ危険であることや、女性の被爆者が社会的、肉体的、精神的な苦痛を経てきたことは論をまたない。だが広島で取材してきた限りでは、女児のがん発症が男児の「2倍」と断定する説を聞いたことはない。

 発効から4年。核保有国や日本など条約に否定的な国に対し、説得力を持って立ち向かう強さを備えた条約に育てなければならない。そのための課題とも向き合いたい。

(2025年3月20日朝刊掲載)

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