社説 ロシア全面停戦案拒否 人命最優先で対話継続を
25年3月22日
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアのプーチン大統領はトランプ米大統領と電話会談に臨み、米国が提示した30日間の全面的な停戦案を拒んだ。
侵攻から3年以上がたち、ロシアとウクライナ双方の死者は計20万人を超えるともいわれる。むろん犠牲者は兵士だけではない。砲火や無人の兵器に、命を脅かされるウクライナ住民の苦難は計り知れない。
会談ではエネルギー施設に限定して30日間、攻撃を停止することに合意した。前進ではあるが、これだけでは流血は止められない。全面停戦から戦争終結への糸口となるよう、国際社会は結束を強めるべき時だ。
トランプ氏が得意の「ディール(取引)」で2時間も話し込んだという割には、会談の成果は乏しかった。そもそもエネルギー施設への無人機攻撃はウクライナの数少ない反撃手段の一つだった。今回の攻撃停止合意は、ロシアにとっても渡りに船だったに違いない。
ロシアが強気な姿勢を貫くのは戦況で優位に立つからだ。既にウクライナ東部、南部の4州を占領し、一方的に併合を宣言した。ウクライナに越境攻撃された地域も奪還しつつあるという。全面停戦案に今飛びつく必要はないと考えているのだろう。
この状況をつくった一因はトランプ氏にある。ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談が決裂した後、軍事支援と機密情報の提供を停止。戦況が悪化し、窮地に立ったゼレンスキー氏が米国との関係修復を優先して停戦案を受け入れた経緯がある。
一方、ロシアは停戦交渉を続ける条件に欧米によるウクライナへの軍事支援停止などを挙げた。トランプ氏の顔も立てながら交渉を引き延ばし、さらに戦況や停戦条件を有利に導く狙いが透ける。
緊密に連携すべきトランプ氏とゼレンスキー氏も、信頼関係を築いているとは言い難い。米国はロシアが占領を続ける原発を所有し、安全保障政策の一環とする提案をしたと公表。ゼレンスキー氏は「ウクライナ国家の所有物だ」と真っ向から否定した。
小国の弱みにつけ込み、大国が利益をむさぼるようなことは許されない。力ずくで現状を変え、国土を広げようとするロシアを批判できまい。侵略されたウクライナ国民に寄り添い、犠牲を最小限にとどめる努力が先進国には求められる。
指針となるのは日米欧の先進7カ国(G7)の外相が今月出した共同声明だろう。ロシアに全面停戦への合意を求め、拒否すればさらなる制裁やウクライナ支援の用意があると圧力を鮮明にした点は評価できる。ロシアのペースで進む交渉へのくさびとしなければならない。
同時に停戦や終戦を見据え、ウクライナが懸念するロシアの再侵攻を防ぐ手だてにも知恵を絞りたい。トランプ氏の交渉力に期待してか、共同声明には米国への配慮もにじんだ。誰もが納得する安保体制と和平が実現できるよう対話を続ける必要がある。
(2025年3月22日朝刊掲載)
侵攻から3年以上がたち、ロシアとウクライナ双方の死者は計20万人を超えるともいわれる。むろん犠牲者は兵士だけではない。砲火や無人の兵器に、命を脅かされるウクライナ住民の苦難は計り知れない。
会談ではエネルギー施設に限定して30日間、攻撃を停止することに合意した。前進ではあるが、これだけでは流血は止められない。全面停戦から戦争終結への糸口となるよう、国際社会は結束を強めるべき時だ。
トランプ氏が得意の「ディール(取引)」で2時間も話し込んだという割には、会談の成果は乏しかった。そもそもエネルギー施設への無人機攻撃はウクライナの数少ない反撃手段の一つだった。今回の攻撃停止合意は、ロシアにとっても渡りに船だったに違いない。
ロシアが強気な姿勢を貫くのは戦況で優位に立つからだ。既にウクライナ東部、南部の4州を占領し、一方的に併合を宣言した。ウクライナに越境攻撃された地域も奪還しつつあるという。全面停戦案に今飛びつく必要はないと考えているのだろう。
この状況をつくった一因はトランプ氏にある。ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談が決裂した後、軍事支援と機密情報の提供を停止。戦況が悪化し、窮地に立ったゼレンスキー氏が米国との関係修復を優先して停戦案を受け入れた経緯がある。
一方、ロシアは停戦交渉を続ける条件に欧米によるウクライナへの軍事支援停止などを挙げた。トランプ氏の顔も立てながら交渉を引き延ばし、さらに戦況や停戦条件を有利に導く狙いが透ける。
緊密に連携すべきトランプ氏とゼレンスキー氏も、信頼関係を築いているとは言い難い。米国はロシアが占領を続ける原発を所有し、安全保障政策の一環とする提案をしたと公表。ゼレンスキー氏は「ウクライナ国家の所有物だ」と真っ向から否定した。
小国の弱みにつけ込み、大国が利益をむさぼるようなことは許されない。力ずくで現状を変え、国土を広げようとするロシアを批判できまい。侵略されたウクライナ国民に寄り添い、犠牲を最小限にとどめる努力が先進国には求められる。
指針となるのは日米欧の先進7カ国(G7)の外相が今月出した共同声明だろう。ロシアに全面停戦への合意を求め、拒否すればさらなる制裁やウクライナ支援の用意があると圧力を鮮明にした点は評価できる。ロシアのペースで進む交渉へのくさびとしなければならない。
同時に停戦や終戦を見据え、ウクライナが懸念するロシアの再侵攻を防ぐ手だてにも知恵を絞りたい。トランプ氏の交渉力に期待してか、共同声明には米国への配慮もにじんだ。誰もが納得する安保体制と和平が実現できるよう対話を続ける必要がある。
(2025年3月22日朝刊掲載)