天風録 『ラジオ100年』
25年3月22日
ロシアのウクライナ侵略戦争が終結する日まで続ける。そう触れ込み、長野県松本市のNPO法人日本ラジオ博物館で始まった企画展が4年目に入っている▲「ラジオと戦争」自体、博物館のテーマらしい。洋の東西を問わず、無線通信の技術がいかに軍事と足並みをそろえてきたか。足跡がウェブサイトからもうかがえる。100年前のきょう産声を上げた日本のラジオ放送も無縁ではない。同じ年に制定されたのが、言論や思想の自由を抑え込む治安維持法だった▲戦前の生い立ちを踏まえ、放送史研究者の竹山昭子元昭和女子大教授は著書「戦争と放送」で断じている。〈ラジオは国家が管理するもの〉であり、〈国家の宣伝機関〉だった―と▲事実、当時の国民感覚からすれば、太平洋戦争はラジオで始まり、ラジオで終わったのではなかったか。1941年12月8日に開戦を告げた大本営発表の臨時ニュースであり、45年8月15日、肉声を国民が初めて耳にした昭和天皇の玉音放送である▲ラジオは今、主役の座にいない。では、後釜は国家との間合いを保てているか。「テレビと戦争」「ネットと戦争」にも、思いを巡らせてみたくなる戦後80年の節目である。
(2025年3月22日朝刊掲載)
(2025年3月22日朝刊掲載)