核禁条約 日本の在り方とは 会議発言議員・専門家に聞く
25年3月27日
日本政府は、今月上旬に米国で開かれた核兵器禁止条約の第3回締約国会議へのオブザーバー参加を見送った。被爆国の役割や、核軍縮の在り方はどうあるべきなのか。国会議員で初めて会議で発言した立憲民主党の森本真治参院議員(51)と、核軍縮外交を担った宮本雄二元外務省軍備管理・科学審議官(78)に聞いた。
被爆国の知見 生かす時
核兵器のない世界の実現はわが国の非常に大きなテーマだ。日本政府が核拡散防止条約(NPT)体制に基軸を置くのは否定しない。だが、核軍縮・不拡散は進んでいない。その中で、核兵器が使われてはいけないとしっかり訴えていく意味で、核兵器禁止条約の締約国会議は非常に重たい意義がある。
日本の国会議員で初めて会議で発言機会を得た。広島の原爆被害や80年たっても被爆者を苦しめる放射線の影響を訴えた。広島の原爆に使われたウランを産出したコンゴや、核兵器を持つ英北部のスコットランドの関係者から連帯を求められた。問題意識や危機感がある。日本に核廃絶の実現をリードしてほしいという強い声だ。
会議であった議論のメインは核の被害や環境修復への援助だった。日本が一番知見を持っている。核兵器保有国は参加していないが、非核保有国との関係をつくるには非常に有益な場だ。唯一の戦争被爆国である日本は特に注目された。
政府はオブザーバー参加を核なき世界に向けたツールの一つとして活用すればいい。見送りは残念で、怒りもある。オブザーバー参加を働きかけるため、自民、公明両党を含めた枠組みをつくる働きかけをしたい。立憲民主党が政権与党になれば、私はオブザーバー参加はもちろん、署名・批准に向けて動く。(堀晋也)
もりもと・しんじ
1973年広島市安佐北区生まれ。同志社大文学部卒。広島市議を経て2013年の参院選広島選挙区で初当選。立憲民主党副幹事長。
現実的な軍縮 探るべき
この世から核兵器をなくすためには、核保有国が核兵器を放棄しても安全だと思える環境づくりが欠かせない。核兵器禁止条約はこのプロセスが甚だ不十分だ。
だからこそ日本政府は締約国会議にオブザーバー参加し、現実的な核軍縮を共に探るべきだ。国際社会が間違った方向へ進まないように誘導するのが役割ではないか。
政府はオブザーバー参加が「自らの平和と安全の確保に支障を来す」と懸念する。しかし、理屈が分からない。核兵器の脅威に米国の核抑止で対処するという、根本的な政策を変えるわけではない。米国が参加に懸念を示すのなら、正々堂々と反論すればいい。
トランプ政権によって米国への信頼が揺らいでいる。同盟国を守らないかもしれない。仮に米国の核抑止に頼れないなら、自ら核兵器を持つ選択肢しかないと私は考える。国民の多数が望めば、主権国家としてもちろん政策転換は可能だ。
核抑止に依存しながら人類の最終目標として核廃絶を求めるという基本的な認識は、私も外務省も共有している。そこから先、オブザーバー参加をどう考えるかの結論が違う。その程度の話だ。
外務省の判断は極めて属人的なところがある。私がポストに就いている時は私の立場が政府の立場になり、人が変われば政策も変わる。(宮野史康)
みやもと・ゆうじ
1946年福岡県太宰府市生まれ。京都大法学部卒。外務省の軍備管理・科学審議官、駐中国大使を歴任。2011年から宮本アジア研究所代表。
(2025年3月27日朝刊掲載)
立憲民主党 森本真治参院議員
被爆国の知見 生かす時
核兵器のない世界の実現はわが国の非常に大きなテーマだ。日本政府が核拡散防止条約(NPT)体制に基軸を置くのは否定しない。だが、核軍縮・不拡散は進んでいない。その中で、核兵器が使われてはいけないとしっかり訴えていく意味で、核兵器禁止条約の締約国会議は非常に重たい意義がある。
日本の国会議員で初めて会議で発言機会を得た。広島の原爆被害や80年たっても被爆者を苦しめる放射線の影響を訴えた。広島の原爆に使われたウランを産出したコンゴや、核兵器を持つ英北部のスコットランドの関係者から連帯を求められた。問題意識や危機感がある。日本に核廃絶の実現をリードしてほしいという強い声だ。
会議であった議論のメインは核の被害や環境修復への援助だった。日本が一番知見を持っている。核兵器保有国は参加していないが、非核保有国との関係をつくるには非常に有益な場だ。唯一の戦争被爆国である日本は特に注目された。
政府はオブザーバー参加を核なき世界に向けたツールの一つとして活用すればいい。見送りは残念で、怒りもある。オブザーバー参加を働きかけるため、自民、公明両党を含めた枠組みをつくる働きかけをしたい。立憲民主党が政権与党になれば、私はオブザーバー参加はもちろん、署名・批准に向けて動く。(堀晋也)
もりもと・しんじ
1973年広島市安佐北区生まれ。同志社大文学部卒。広島市議を経て2013年の参院選広島選挙区で初当選。立憲民主党副幹事長。
宮本雄二元外務省軍備管理・科学審議官
現実的な軍縮 探るべき
この世から核兵器をなくすためには、核保有国が核兵器を放棄しても安全だと思える環境づくりが欠かせない。核兵器禁止条約はこのプロセスが甚だ不十分だ。
だからこそ日本政府は締約国会議にオブザーバー参加し、現実的な核軍縮を共に探るべきだ。国際社会が間違った方向へ進まないように誘導するのが役割ではないか。
政府はオブザーバー参加が「自らの平和と安全の確保に支障を来す」と懸念する。しかし、理屈が分からない。核兵器の脅威に米国の核抑止で対処するという、根本的な政策を変えるわけではない。米国が参加に懸念を示すのなら、正々堂々と反論すればいい。
トランプ政権によって米国への信頼が揺らいでいる。同盟国を守らないかもしれない。仮に米国の核抑止に頼れないなら、自ら核兵器を持つ選択肢しかないと私は考える。国民の多数が望めば、主権国家としてもちろん政策転換は可能だ。
核抑止に依存しながら人類の最終目標として核廃絶を求めるという基本的な認識は、私も外務省も共有している。そこから先、オブザーバー参加をどう考えるかの結論が違う。その程度の話だ。
外務省の判断は極めて属人的なところがある。私がポストに就いている時は私の立場が政府の立場になり、人が変われば政策も変わる。(宮野史康)
みやもと・ゆうじ
1946年福岡県太宰府市生まれ。京都大法学部卒。外務省の軍備管理・科学審議官、駐中国大使を歴任。2011年から宮本アジア研究所代表。
(2025年3月27日朝刊掲載)