『潮流』 3びきのオオカミ
25年3月22日
■論説委員 森田裕美
長男の在学中から足かけ10年、地元小学校で続けた読み聞かせの活動が今月、次男の卒業で終了した。本の魅力を伝えたくて保護者仲間で年数回、時宜にかなった絵本を紹介。仲間の一人で戦中生まれのおばあちゃんに台湾からの引き揚げ体験を語ってもらい、関連図書を読んだこともある。私たち大人にとっても、絵本から得る学びや気付きは多かった。
最後の回で児童に人気だったのは、仲間が読んだ「3びきのかわいいオオカミ」(冨山房)。ギリシャの作家が文、英国の作家が絵を手がけた一冊は「3びきのこぶた」のパロディーのようでいて、悪役と主役の逆転に始まり、示唆に富む。
物語はこう。れんがの家に暮らす3匹のオオカミの前に極悪非道な大ブタが現れ、大づちを振り回し、家を破壊する。3匹がコンクリートの家を建てて対抗すると、電気ドリルを持ってきて砕く。鉄骨や鉄板で守れば今度はダイナマイトで爆破。3匹はいたちごっこの末に発想を変え、きれいな花で家を建てる。かぐわしい匂いに、大ブタは戦闘意欲を失って…。
「絵本の中のファンタジーだ」と言ってのけるのは簡単だろう。しかし私はハッとした。この寓話(ぐうわ)は、「防衛力強化」を叫んで軍拡に余念がない今の世界へのアンチテーゼとして読めるのではないかと。力で破壊を繰り返す相手に、同じように向き合っても解決にはならないと3匹は知ったのだろう。
実際、児童にどこまで届いたかは分からない。それでも折々に思い出し立ち止まって考えてほしいと願う。将来「大ブタ」のような人や出来事と遭遇しても、力を行使することだけが、解決策ではないということを。
(2025年3月22日朝刊掲載)
長男の在学中から足かけ10年、地元小学校で続けた読み聞かせの活動が今月、次男の卒業で終了した。本の魅力を伝えたくて保護者仲間で年数回、時宜にかなった絵本を紹介。仲間の一人で戦中生まれのおばあちゃんに台湾からの引き揚げ体験を語ってもらい、関連図書を読んだこともある。私たち大人にとっても、絵本から得る学びや気付きは多かった。
最後の回で児童に人気だったのは、仲間が読んだ「3びきのかわいいオオカミ」(冨山房)。ギリシャの作家が文、英国の作家が絵を手がけた一冊は「3びきのこぶた」のパロディーのようでいて、悪役と主役の逆転に始まり、示唆に富む。
物語はこう。れんがの家に暮らす3匹のオオカミの前に極悪非道な大ブタが現れ、大づちを振り回し、家を破壊する。3匹がコンクリートの家を建てて対抗すると、電気ドリルを持ってきて砕く。鉄骨や鉄板で守れば今度はダイナマイトで爆破。3匹はいたちごっこの末に発想を変え、きれいな花で家を建てる。かぐわしい匂いに、大ブタは戦闘意欲を失って…。
「絵本の中のファンタジーだ」と言ってのけるのは簡単だろう。しかし私はハッとした。この寓話(ぐうわ)は、「防衛力強化」を叫んで軍拡に余念がない今の世界へのアンチテーゼとして読めるのではないかと。力で破壊を繰り返す相手に、同じように向き合っても解決にはならないと3匹は知ったのだろう。
実際、児童にどこまで届いたかは分からない。それでも折々に思い出し立ち止まって考えてほしいと願う。将来「大ブタ」のような人や出来事と遭遇しても、力を行使することだけが、解決策ではないということを。
(2025年3月22日朝刊掲載)