天風録 『さくらの国で』
25年4月4日
不思議なものである。何ら気にも留めていなかったのに、どこか浮き立つ感じがある。指折り数えられるほど、その日が近づいたからだろうか。大阪・関西万博の開幕まで、あと9日となった▲ちょうど花見の季節と重なることもあるのだろう。列島を南から北へと咲き進んでいる。そういえば、半世紀前の大阪万博でも「こんにちは こんにちは さくらの国で…」とテーマソングで歌っていた。平和な地に咲く花が万博との見立てらしい▲作詞した詩人の島田陽子さんは敗戦前、大阪大空襲で米軍の機銃掃射に逃げ回った。犠牲となった女学校の仲間もいる。戦争への憎しみを生涯、隠さなかったようだ。どんな平和でも、戦争よりはいい―と▲不戦の心は万博ソングの歌い手、三波春夫さんにも響いたという。先の戦争で陸軍に入隊し、敗戦でシベリア抑留を強いられた。辞世の句に、あの花が顔をのぞかせている。〈逝く空に桜の花があれば佳(よ)し〉。かつては「同期の桜」と戦友を例えた花に、どんな思いを込めたのか▲ウクライナでもパレスチナのガザ地区でも、終戦は見通せない。今度は貿易戦争の火種まで、ばらまかれる中、「さくらの国」で万博が近づく。
(2025年4月4日朝刊掲載)
(2025年4月4日朝刊掲載)