天風録 『パンといのち』
25年4月12日
忙しい朝に備え、前夜からホームベーカリーに材料をセットし、予約タイマーをかけておく。焼き上がるパンの香りで目覚めるのは何とも幸せな気分である。大仰かもしれないが、生きる希望を感じる▲きょうは、パンの日。江戸時代に初めて本格的に焼き窯でパンが製造された日にちなむ。「アンパンマン」の生みの親やなせたかしさんと小松暢(のぶ)さん夫妻をモデルに始まったNHK連続テレビ小説「あんぱん」にも石窯で焼いたパンがしばしば登場し、朝から心を和ませてくれる▲餓死しそうな人がいれば、一片のパンを与える―。戦争体験を経てやなせさんがたどり着いた「正義」は、異色のヒーロー誕生の原点として知られる。そんな誰でも腑(ふ)に落ちる正義が今、踏みにじられている▲パレスチナ自治区ガザではイスラエルによる武力攻撃と支援物資の搬入停止で、どの製パン店も営業停止に追い込まれた。市民の命が脅かされている。現地を報じる映像に胸がつぶれる▲「人間の営みを完全に無視」。国連機関のトップらも共同声明を発した。国際法は飢餓を戦争の手段にするのを禁じる。ガザの痛みを共有し解決策を考えたい。日々パンにありつけている私たちも。
(2025年4月12日朝刊掲載)
(2025年4月12日朝刊掲載)