「広く参加を」原点回帰 8・6式典 各国招待から通知に変更 政治問題化の回避も
25年4月12日
広島市が平和記念式典に各国・地域の政府代表を「招待」するのではなく、開催を案内する「通知」に変更し、より多くの国と地域が参加できる環境が整う。昨年はロシアを招待せず、イスラエルを招く姿勢が「二重基準」と波紋を広げた。松井一実市長は見直しを式典の原点回帰と強調。政治問題化も回避したい考えだ。(樋口浩二、小林可奈)
「理解していただけなかったから、招待のやり方を考えますと申し上げた。その約束を果たした」。11日、記者会見で式典の通知方式を説明した松井市長は憤りをにじませた。念頭にあったのは3度口にした「ダブルスタンダード(二重基準)」との批判だ。
核兵器廃絶と非戦の思いの共有へ、広く各国代表を呼ぶのが市の基本姿勢。ただ昨年はイスラエルを招く一方、紛争当事国かどうかではなく「式典の円滑な挙行への影響」を理由にロシアとベラルーシを招かないとの説明に、被爆者や市民の理解が広がらなかった。
二つの被爆地でも対応が分かれた。長崎市がイスラエルを式典に招かず、日本を除く先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の駐日大使が反発して欠席。世界の「分断」を色濃く映し出す事態となった。紛争当事国の招待の是非が取り沙汰され、広島市の幹部の一人は「市長は被爆者を悼む主眼と別の部分ばかりフォーカスされると気をもんでいた」と明かす。
行き着いたのが駐日大使たちを指名して招待するのではなく、開催を知らせて参列するかどうかを各国の自発的な判断に委ねる「通知」という手法だった。「式典の原点に立ち返ろうと考えた」と松井市長は言う。
ある外務省幹部は「被爆の惨状を多くの国に伝えられるのではないか」と好意的に受け止めた。一方、市民団体には「招待の方が平和を発信する市の姿勢がストレートに伝わるのではないか」との声もある。
市は通知文書の表現などを詰めた上で、5月下旬をめどに各国へ発送する予定。紛争当事国の回答が焦点となる。在日ロシア大使館は、中国新聞の取材に「広島市から公式情報を受け取っていない」として、現時点でのコメントを避けた。
広島市方針 評価と注文 被爆者団体や市民団体
広島市が今年の平和記念式典にロシアやパレスチナを含め日本と外交ルートのある全ての国と地域に案内文を送る方針を示した11日、被爆者団体からは一定に評価する声が上がった。市民団体などは、市にパレスチナ自治区ガザで侵攻を続けるイスラエルへの抗議を求めた。
広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(83)は昨年、ロシアとベラルーシを招かないなら、イスラエルも招待すべきでないと市へ申し入れていた。市の新方針に「分け隔てなく呼ぶ一つの妙案だと思う。戦争をする国や核保有国の代表は責任を持って出席し、被爆の実態を知ってもらいたい」と積極的な参加を期待した。
もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(80)は「二重基準が解消されるのは良かった」と受け止めた。ただ、「イスラエルへの抗議など、言うべきことは言ってもらいたい」。市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」の田中美穂共同代表(30)も「罪のない市民を殺させない踏み込んだ市のメッセージが要る」と指摘する。
ガザ攻撃に抗議する市民団体「広島パレスチナともしび連帯共同体」のメンバーで市立大の田浪亜央江准教授は「各国に参列判断を委ねるのは式典の在り方に関わる大きな変化。理由や目的をよく確認したい」と話した。(新山創)
(2025年4月12日朝刊掲載)
「理解していただけなかったから、招待のやり方を考えますと申し上げた。その約束を果たした」。11日、記者会見で式典の通知方式を説明した松井市長は憤りをにじませた。念頭にあったのは3度口にした「ダブルスタンダード(二重基準)」との批判だ。
核兵器廃絶と非戦の思いの共有へ、広く各国代表を呼ぶのが市の基本姿勢。ただ昨年はイスラエルを招く一方、紛争当事国かどうかではなく「式典の円滑な挙行への影響」を理由にロシアとベラルーシを招かないとの説明に、被爆者や市民の理解が広がらなかった。
二つの被爆地でも対応が分かれた。長崎市がイスラエルを式典に招かず、日本を除く先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の駐日大使が反発して欠席。世界の「分断」を色濃く映し出す事態となった。紛争当事国の招待の是非が取り沙汰され、広島市の幹部の一人は「市長は被爆者を悼む主眼と別の部分ばかりフォーカスされると気をもんでいた」と明かす。
行き着いたのが駐日大使たちを指名して招待するのではなく、開催を知らせて参列するかどうかを各国の自発的な判断に委ねる「通知」という手法だった。「式典の原点に立ち返ろうと考えた」と松井市長は言う。
ある外務省幹部は「被爆の惨状を多くの国に伝えられるのではないか」と好意的に受け止めた。一方、市民団体には「招待の方が平和を発信する市の姿勢がストレートに伝わるのではないか」との声もある。
市は通知文書の表現などを詰めた上で、5月下旬をめどに各国へ発送する予定。紛争当事国の回答が焦点となる。在日ロシア大使館は、中国新聞の取材に「広島市から公式情報を受け取っていない」として、現時点でのコメントを避けた。
広島市方針 評価と注文 被爆者団体や市民団体
広島市が今年の平和記念式典にロシアやパレスチナを含め日本と外交ルートのある全ての国と地域に案内文を送る方針を示した11日、被爆者団体からは一定に評価する声が上がった。市民団体などは、市にパレスチナ自治区ガザで侵攻を続けるイスラエルへの抗議を求めた。
広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(83)は昨年、ロシアとベラルーシを招かないなら、イスラエルも招待すべきでないと市へ申し入れていた。市の新方針に「分け隔てなく呼ぶ一つの妙案だと思う。戦争をする国や核保有国の代表は責任を持って出席し、被爆の実態を知ってもらいたい」と積極的な参加を期待した。
もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(80)は「二重基準が解消されるのは良かった」と受け止めた。ただ、「イスラエルへの抗議など、言うべきことは言ってもらいたい」。市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」の田中美穂共同代表(30)も「罪のない市民を殺させない踏み込んだ市のメッセージが要る」と指摘する。
ガザ攻撃に抗議する市民団体「広島パレスチナともしび連帯共同体」のメンバーで市立大の田浪亜央江准教授は「各国に参列判断を委ねるのは式典の在り方に関わる大きな変化。理由や目的をよく確認したい」と話した。(新山創)
(2025年4月12日朝刊掲載)