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社説・コラム

社説 米イラン核協議 慎重に合意の機運高めよ

 イランの核開発を巡り、同国と米国の協議が今月、始まった。核合意から米国が離脱して7年。再び対話が始まった意義は大きい。

 協議は中東オマーンを仲介役として、初回はオマーン、2回目はイタリア・ローマで開かれた。米国の中東担当特使とイラン外相が別の部屋にいて書面を交換する間接協議にとどまるが、話し合いを続ける方向は一致している。本格的な交渉に進めるかどうかが焦点だ。中東の緊張緩和に向け、合意への機運を慎重に育んでもらいたい。

 核合意は2015年、国連安全保障理事会の常任理事国、米英仏中ロにドイツを加えた6カ国とイランの間で実現した。イランが核開発を制限する見返りに、原油の禁輸などの制裁を解除する内容だった。米国は「核なき世界」を掲げるオバマ政権だった。

 ところがイランを敵視する第1次トランプ政権が18年5月に一方的に離脱し、制裁を再発動した。反発したイランは核開発を拡大し合意は機能不全に陥った。今年10月には期限も切れる。

 今回の協議は米国側が打診した。イランは影響下にあるレバノンのヒズボラや、パレスチナ自治区ガザのハマスなどの武装組織がイスラエルとの戦闘で弱体化し、制裁で経済も疲弊している。トランプ大統領はイランに譲歩させる好機と判断したとみられる。

 とはいえ、長年の相互不信は容易には解けないだろう。難航は必至とみられ、双方に忍耐と妥協が求められよう。

 イランは21年4月に濃縮度60%のウラン製造に着手した。90%以上で核兵器に使われる。イランは一貫して核保有の意思はないと主張している。平和利用を強調するなら、まずは国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れるのが筋だ。

 イランと敵対するイスラエルは事実上の核保有国である。仮にイランが核武装すれば、中東は極めて危険な状況になる。両国は昨年、2度もミサイル攻撃の応酬を行っている。サウジアラビアも「イランが保有すればわれわれも持つ」と明言している。火薬庫と呼ばれる中東で、核開発が広がる事態は何としても防がねばならない。

 トランプ氏は「力による平和」を信条とする。交渉期限を2カ月としているもようで、決裂した場合の軍事力行使を示唆している。一方でウラン濃縮活動を停止すれば平和利用の権利は認める方針とされる。恫喝(どうかつ)ではなく、冷静に歩み寄る姿勢が不可欠だ。

 核拡散防止条約(NPT)は、非保有国に核兵器の開発を禁じる代わりに保有国へ核軍縮を課す。米国は自らの義務に誠実に向き合うべきだ。

 日本はイランの伝統的な友好国である。イラン政権幹部は米国との交渉前、日本政府に仲介役の打診を検討していることを共同通信に明かしている。石破政権は、核合意に名を連ねる英仏独らを巻き込んで、米イランの対話が途切れないよう側面支援したい。国際協調による緊張緩和と秩序回復へ、指導力を発揮すべき時である。

(2025年4月22日朝刊掲載)

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