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連載・特集

緑地帯 田中今子 キース・ヘリングが見た広島④

 当館では、年に1度テーマを変えながらヘリングの作品を多角的に展覧してきた。現在は「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」展を開催している。ヘリングの反戦・反核を訴える活動をたどり、作品に込められた「平和」と「自由」へのメッセージを現代の視点からひもとく展覧会である。

 本展は、2024年に開幕し、年をまたいで25年5月18日まで続く。戦後80年を目前にヘリングのアートがいかにして社会へインパクトを、あるいは人々へインスピレーションを与え続けることができるのかを想像しながら、展覧会名を付けた。

 副題は、ヘリングが広島市の原爆資料館を訪れた際に日記に残した言葉に着想を得ている。 「1945年に作られた爆弾がこのような破壊を引き起こし、その後核兵器のレベルと数が強化されているというのは信じがたい。誰が再び望むのだろうか? どこの誰に? 恐ろしいことは、人々が軍拡競争をおもちゃのように議論し、話し合っているということだ。彼らすべての男性は、安全なヨーロッパの国々の交渉のテーブルではなく、ここに来るべきだ」

 ヘリングの描く人物には顔のパーツがなく、肌の色も着ている服も分からない。人物たちは一方では武器を構え、また一方では群を成して拳を挙げている。彼らに顔があったら、一体どんな表情をしているのか。そうした視点でも作品を見てもらいたい。(中村キース・ヘリング美術館主任学芸員=山梨県)

(2025年4月25日朝刊掲載)

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