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連載・特集

緑地帯 田中今子 キース・ヘリングが見た広島⑤

 中村キース・ヘリング美術館で5月18日まで開催中の「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」展は、ヘリングの幼少期を振り返ることから始まる。そこから、作家が社会をどのように捉え、どのような取り組みを行ったのかをプロジェクトごとに紹介する。

 1982年、ニューヨーク国連本部での第2回国連軍縮特別総会にあわせて、セントラルパークで無料配布したポスター。86年、チェックポイント・チャーリー博物館からの依頼を受けて、ベルリンの壁に描いた100メートルにおよぶ壁画。ニューヨークや東京で、大勢の子どもたちと共同制作した作品…。多様な作例を通じて、今日私たちが抱える課題について、対話を促すことを本展の狙いとした。

 こうした作品群とともに本展を構成するのが「キース・ヘリングが見た広島」である。この章では、今回実施した調査を経て明らかになったヘリングの広島訪問の経緯、滞在中の動向、その後の出来事について、作品や資料を交え紹介している。

 88年にヘリングが広島を訪れる契機となったのは、同年8月に広島サンプラザホールで開催されたコンサート「HIROSHIMA’88」だった。このコンサートは、約10年間、開催された原爆養護ホーム建設のためのチャリティー・コンサートである。第2回が開催された88年、ヘリングはコンサートのメインイメージを手がけた。(中村キース・ヘリング美術館主任学芸員=山梨県)

(2025年4月29日朝刊掲載)

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