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緑地帯 田中今子 キース・ヘリングが見た広島⑧

 「平和」と「自由」の意味について考える展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」は、5月18日で閉幕する。世界は戦後80年の節目を迎え、広島と長崎には一層の注目が集まることだろう。ヘリングの遺志を受け継ぐ当館でも、何かそれに寄与できることはないか。そうした思いのもと計画しているのが、ヘリングのアートを拡張させるようなワークショップだ。このプロジェクトは、2025年を生きる広島の子どもたちと共に実現したいと考えている。

 ヘリングのアートは、没後35年を迎えた現在もなお、世界の名だたる美術館に展示されるだけでなく、グッズを通して日常に浸透し続けている。世界各地の公共空間に恒久設置された壁画や彫刻は、その街に暮らす人の生活を豊かにするだけでなく、文化観光資源としても街に貢献している。芸術は全ての人にとって必要だと考え、大衆のために作品を作り続けたヘリング。彼のアートならば、子どもたちの願いを世界へ、そして来たる時代へと伝えることに力を添えられるのではないだろうか。

 ヘリングは広島市の原爆資料館を出た後、同行していた関係者らとともに、ただ黙って平和記念公園を歩いたそうだ。「話す必要のないことを全員が理解していた」。きっと今年も多くの人が黙々とそこを歩くだろう。春が訪れた八ケ岳から、広島を思う。 (中村キース・ヘリング美術館主任学芸員=山梨県)=おわり

(2025年5月3日朝刊掲載)

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