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[2025ひろしまFF] 世界に平穏を 願い込め テーマ考案の88歳橋本さん

咲かそうよ 平和の種から 花いっぱい

 「咲かそうよ 平和の種から 花いっぱい」。2025ひろしまフラワーフェスティバル(FF)のテーマは広島市安佐南区の88歳、橋本多美恵さんが考えた。広島に原爆が投下されて80年となる今年。戦時下を生き抜いた橋本さんは、この16文字に、世界中の誰もが穏やかな日々を送れるようにとの願いを込めた。(新本恭子)

 橋本さんは曙町(現東区東蟹屋町)で生まれた。戦争の記憶は国民学校に通っていた1944年ごろから濃くなる。「空襲のサイレンがよく鳴り、飛行機の音にいつもおびえていた」と振り返る。授業中に警報が鳴れば集団下校して自宅裏の防空壕(ごう)に逃げた。

 3年生になった45年春には向原(現安芸高田市)の伯父の家に1人で疎開した。広島に残る父からは「父さんや母さんが死んでも、周りの人の言うことを聞いて生きていくように」と告げられた。

 そして8月6日、広島方面の空にきのこ雲を見た。被爆直後、両親や妹たちは無事だった。しかし、翌46年1月に生まれた弟繁実さんは生後52日で亡くなった。妹敏子さんも約10年後に中学1年生で急性骨髄炎のためこの世を去った。「力なく『原爆のせいだろう』と言った母の姿が忘れられません」

 戦争中に心を覆ったのは「恐ろしい」という感情だけ。勉強どころではなかった日々、親元を離れる寂しさ、いつ命を落とすかしれない不安、かわいがってくれたいとこの被爆死…。だから今、FFが開催されるこの平穏をかみしめる。そして世界には今も戦禍に苦しむ人々がいることに心を痛める。

 FFには、長女を連れて77年の第1回から何度も訪れた。歌手の佐良直美さんやアイドルのアグネス・ラムさん、大相撲の高見山関たち、有名人を見たいと会場中を巡った。「私、明るいお祭りが好きだから」。会場で撮った何枚もの写真は、大切にアルバムに収めている。

 足が弱ってきた最近は、テレビ越しに祭典を満喫する。「平和の灯(ともしび)」を花の塔に点火する場面は、何度見ても「じーんとする」という。

 1日、開幕準備が進む平和大通りを訪れた橋本さん。「原爆で一度は何もなくなった広島に根付いたお祭り。大勢の人がつくり上げとるんじゃね」と花の塔を見上げた。「みんな笑顔になって花がきれいで。FFの光景こそが平和なのかなと思うんです」

(2025年5月3日朝刊掲載)

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