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[NPT準備委] 核抑止再考 促す記述削除 決定事項案改訂版 採択へ譲歩

 2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて米ニューヨークの国連本部で開かれている第3回準備委員会は8日、アジュマン議長(ガーナ)が示した決定事項案の改訂版を討議した。草案段階で争点になっていた、核共有や核抑止の再考を促す記述を削除。核兵器保有国や核抑止に依存する国の反発を受け、最終日の9日の採択を目指すために譲歩したとみられる。(ニューヨーク発 宮野史康)

 改訂版では、核保有国に核戦力や核軍縮の国別報告を求める項目を草案から維持。一方、報告の標準様式の内容に「核共有と拡大抑止に関する熟考」を含む可能性に触れた箇所を削った。26年の再検討会議の第1委員会に、国別報告を議論する補助機関を設ける提案も除いた。

 7日の討議では、米国の「核の傘」の下にある日本やカナダなどの非保有国が、自国の安全保障政策を念頭に核抑止などの記述に反発。ロシアと中国は、自国の報告に消極姿勢を示していた。

 8日の討議では、英国が初期評価としつつ「全会一致が可能だ」と改訂版への支持を表明。日本は議長の努力へ謝意を示した。非保有国の外交筋は「予想通り内容は薄まったが、合意の目はある」と見立てた。ただ、中国は核の傘に言及するよう注文した。

 決定事項は準備委の成果文書の一つで、「再検討プロセスの強化」に焦点を絞った内容。再検討会議が過去2回続けて決裂する中、NPT体制の立て直しへ、26年の再検討会議で合意すべき事項を示す。核軍縮などに関する国別報告は、10年の会議で合意したが十分実行されていない。

「先制不使用」残す 勧告案改訂版

 2026年のNPT再検討会議に向けた第3回準備委員会で、アジュマン議長がまとめた勧告案の改訂版の全容が9日、分かった。核兵器の「先制不使用」政策を促す記述を残し、核兵器禁止条約の説明も厚くした。引き続き、核保有国の反発が見込まれる。(ニューヨーク発 宮野史康)

 勧告は準備委の議論を網羅的にまとめた成果文書で、再検討会議のたたき台となる。核保有国などに譲歩した形の決定事項案の改訂版に比べ、採択の可能性を探るよりも論点の提示を重視したとみられる。8日の討議終了後に加盟国に示した。

 核兵器の先制不使用については「法的に拘束する方策作りに向けた対話と協力」に取り組むよう核保有国に促した。合意を求めた草案段階から表現を和らげた。核保有国が非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」の意義も強調している。

 核兵器禁止条約を巡っては「核兵器のない世界に向けた貢献に留意する」との評価を維持し、署名・加盟国数の説明を追加。関連し、全ての国が国際人道法と国連憲章を順守する必要性を新たに書き込んだ。ほかに、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアム(一時停止)への言及を加えた。

 8日の討議では、米国が草案に関し「いくつかの点に重大な懸念がありバランスを欠く」と発言。NPT加盟の核保有国のうち中国だけが宣言していない、生産モラトリアムに触れていない点を批判した。核兵器の先制不使用は「検証できない」と削除を求めた。

 核兵器禁止条約を推進する各国はNPTと禁止条約の補完性に言及するよう要求。これに対し、英国は「禁止条約はNPTを補完しない」と断言し、合意を困難視した。

外相「表現後退でない」 軍縮・不拡散教育共同声明「人道」削除巡り

 NPT再検討会議に向けた第3回準備委員会を巡り、岩屋毅外相は9日の記者会見で、1日に発表された軍縮・不拡散教育の共同声明について「前回と表現が違うからといって後退したという指摘は当たらない」と述べた。

 声明では、前回の2022年再検討会議ではあった、核兵器使用による「壊滅的な人道上の結末」との文言が削除された。岩屋氏は「これまで以上にさまざまな観点を入れ込んだ」とし、具体例に「核爆発とその後の壊滅的な被害を経験した貴重な証言が、世界中の軍縮教育の取り組みで不可欠な役割を果たしてきたこと」を挙げた。

 核兵器保有国のうち、前回賛同した米国が加わらなかった点は言及を避けた。(中川雅晴)

(2025年5月10日朝刊掲載)

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