社説 西田議員「ひめゆり」発言 沖縄史を歪曲 撤回は当然だ
25年5月10日
戦後80年の節目の年に、沖縄県民の心を傷つける、信じられない発言が飛び出した。
太平洋戦争末期の沖縄戦で犠牲となった学生や教員を慰霊する「ひめゆりの塔」の展示説明を巡り、自民党の西田昌司参院議員が「歴史を書き換えている」などと述べた。
撤回を拒んでいたが、きのうになって「非常に不適切だった。沖縄県民におわびし、訂正、削除する」と述べた。戦争体験者の思いを冒瀆(ぼうとく)するといった批判が地元から相次ぎ、野党に加え、与党からも批判され、態度を一変させたようだ。撤回は当然だが、心底反省したのか疑問が残る。
発言は3日に那覇市で、沖縄の神道政治連盟県本部などが主催、自民党県連が共催したシンポジウムで出た。「日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆりの隊が死ぬことになった。そして米国が入ってきて、沖縄が解放されたと、そういう文脈で書いている。歴史を書き換えられると、こういうことになってしまう」。こうした説明は、塔の周りやひめゆり平和祈念資料館には今も過去も存在しない。沖縄戦の歴史を歪曲(わいきょく)した発言だと言わざるを得ない。
さらに、歴史を書き換えようとする危険極まりない発言を続けた。「沖縄の場合、地上戦の解釈を含めてかなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている。自分たちが納得できる歴史をつくらないと、日本は独立できない」
20年以上も前に展示を見て違和感を覚えたときの印象を述べたと記者団に説明した。あやふやな記憶を基に、体験者の証言や、これまでの歴史研究で明らかになった沖縄戦の実情を踏みにじった。しかも当初は、報道の仕方が悪いと言わんばかりだった。
身内から批判が出るのも無理はない。自民党の沖縄振興調査会長の小渕優子組織運動本部長は「われわれの認識とは全く違う、一議員の発言だ」と突き放した。
西田氏は会見で、広島市の原爆慰霊碑の碑文にも「違和感がある」と批判。「誰が誰に言っている言葉か取り方によって全然違う」と述べた。
碑文には主語がなく、論争があったのは確かだ。ただ、広島市は「人類全体が犯した戦争という過ちを繰り返さない決意表明」と説明している。経緯を踏まえない軽率な発言といえよう。
広島を含む戦争被害を伝える展示での説明が「『東京裁判史観』によって表記されている」とも批判した。連合国が日本の戦争指導者を裁いた東京裁判について、戦勝国の一方的な裁きの場と見る言い分は、分からないではない。
それでも、無謀な負け戦に国民を巻き込み、アジアの国々の人々を含めて、多くの犠牲者を出した指導者の責任を軽視することは許されない。
まずは西田氏こそ、沖縄や広島・長崎の戦争被害を学び直して、一方的な歴史認識を改めるべきである。
自民党の責任も重い。西田氏が発言を撤回したからといって不問に処すようでは「同じ穴のむじな」と受け取られよう。沖縄にどう向き合うか、党も問われている。
(2025年5月10日朝刊掲載)
太平洋戦争末期の沖縄戦で犠牲となった学生や教員を慰霊する「ひめゆりの塔」の展示説明を巡り、自民党の西田昌司参院議員が「歴史を書き換えている」などと述べた。
撤回を拒んでいたが、きのうになって「非常に不適切だった。沖縄県民におわびし、訂正、削除する」と述べた。戦争体験者の思いを冒瀆(ぼうとく)するといった批判が地元から相次ぎ、野党に加え、与党からも批判され、態度を一変させたようだ。撤回は当然だが、心底反省したのか疑問が残る。
発言は3日に那覇市で、沖縄の神道政治連盟県本部などが主催、自民党県連が共催したシンポジウムで出た。「日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆりの隊が死ぬことになった。そして米国が入ってきて、沖縄が解放されたと、そういう文脈で書いている。歴史を書き換えられると、こういうことになってしまう」。こうした説明は、塔の周りやひめゆり平和祈念資料館には今も過去も存在しない。沖縄戦の歴史を歪曲(わいきょく)した発言だと言わざるを得ない。
さらに、歴史を書き換えようとする危険極まりない発言を続けた。「沖縄の場合、地上戦の解釈を含めてかなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている。自分たちが納得できる歴史をつくらないと、日本は独立できない」
20年以上も前に展示を見て違和感を覚えたときの印象を述べたと記者団に説明した。あやふやな記憶を基に、体験者の証言や、これまでの歴史研究で明らかになった沖縄戦の実情を踏みにじった。しかも当初は、報道の仕方が悪いと言わんばかりだった。
身内から批判が出るのも無理はない。自民党の沖縄振興調査会長の小渕優子組織運動本部長は「われわれの認識とは全く違う、一議員の発言だ」と突き放した。
西田氏は会見で、広島市の原爆慰霊碑の碑文にも「違和感がある」と批判。「誰が誰に言っている言葉か取り方によって全然違う」と述べた。
碑文には主語がなく、論争があったのは確かだ。ただ、広島市は「人類全体が犯した戦争という過ちを繰り返さない決意表明」と説明している。経緯を踏まえない軽率な発言といえよう。
広島を含む戦争被害を伝える展示での説明が「『東京裁判史観』によって表記されている」とも批判した。連合国が日本の戦争指導者を裁いた東京裁判について、戦勝国の一方的な裁きの場と見る言い分は、分からないではない。
それでも、無謀な負け戦に国民を巻き込み、アジアの国々の人々を含めて、多くの犠牲者を出した指導者の責任を軽視することは許されない。
まずは西田氏こそ、沖縄や広島・長崎の戦争被害を学び直して、一方的な歴史認識を改めるべきである。
自民党の責任も重い。西田氏が発言を撤回したからといって不問に処すようでは「同じ穴のむじな」と受け取られよう。沖縄にどう向き合うか、党も問われている。
(2025年5月10日朝刊掲載)