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社説・コラム

社説 空自機墜落 相次ぐ事故 背景には何が

 一体、何が起きたのか。航空自衛隊のT4練習機が愛知県の小牧基地を飛び立って程なく、約13キロ北東にある犬山市のため池に墜落した。

 エンジンらしき物体や体の一部が見つかった。乗員2人の捜索とともに空自が設置した事故調査委員会が動き出したが、今のところ原因は謎に包まれている。

 2人が所属する宮崎県の新田原基地に向けて離陸して1分ほど後、計画通りのコースと高度から旋回中に急降下したようだ。ヒューマンエラーというより、機体の側に何らかの突発的トラブルが起きたと捉える方が自然だろう。

 池のそばに観光名所として名高い博物館明治村があり、市街地も近い。操縦者が地上の被害を考え、とっさに池に機首を向けたという見方もできる。だが一歩間違えば住民や観光客を巻き込む大惨事になりかねなかった。防衛省は深刻に受け止めるべきだ。

 空自が200機近くを保有するT4の飛行を見合わせ、緊急点検に入ったのも当然だろう。他機を含め、安全確認と再発防止に全力を尽くしてほしい。各地で人気の空自飛行隊「ブルーインパルス」もT4を使用しており、25年前には墜落事故を起こしたことがある。この際、展示飛行の中止はやむを得まい。

 それだけ今回の事故の衝撃は大きい。空自全体の運用にも響いてくるからだ。

 乗っていた2人が所属する新田原の第305飛行隊は主力戦闘機F15を運用する。領空侵入への緊急発進も含め、最前線の日本海や東シナ海の防空が任務だ。他の航空基地と同じく、T4は操縦技術向上という本来の任務にとどまらず連絡機の役割も担う。この墜落機にしても、訓練というより所属基地に移動する途中だったと考えられる。

 ある意味で防衛力を足元で支える機種なのに万一の備えは十分だったか。墜落機は1989年に製造され、経年劣化や整備上の問題は現時点で確認されていないが、搭載しておくべきフライトレコーダーがなかった。これでは操縦の履歴や機内の音声が分からないままで、原因究明の支障となるのは間違いない。

 これまで予算に限りがあるとしてT4のレコーダー搭載は優先順位を付けて進めてきたといい、未装備の機がかなり残る。慌てた防衛省は設置を表明した。5年で43兆円の膨張した防衛費が投じられ、しかも使い切れず余らせる現状との落差はどうなのか。

 長距離ミサイルやオスプレイといった最新鋭の装備に前のめりとなる一方、古い装備への目配りがおろそかになっていないか。人手不足が深刻な現場の訓練についても同じようなことを懸念する。

 毎年のように自衛隊機の墜落が相次ぐ現実にあぜんとする。3年前は空自の戦闘機、2年前には陸上自衛隊のヘリがそれぞれ海に墜落し、昨年は海上自衛隊の哨戒ヘリ2機が洋上で衝突した。合わせて20人が殉職している。

 配備機の安全性や事故への不安は基地への住民の信頼を根本から揺るがす。それは米軍基地だけの話ではない。

(2025年5月17日朝刊掲載)

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