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日鉄呉跡地 市の防衛省案受け入れ方針 市民や経済界 賛否交錯 「一歩前進」「合意まだ」

 呉市が、日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地での防衛省の複合防衛拠点整備案について受け入れの方針を打ち出したことを受け、呉市民や地元経済界からは賛否の意見が交錯した。重大な政策なのに情報が足りないとして市に説明を求める声もあった。(栾暁雨、小林旦地、開沼位晏)

 市議会で、防衛省案の受け入れの賛否を問うた採決の場面。別室のモニターで傍聴していた人から「反対意見を無視しないで」と抗議が出た。参加した同市の小林富美子さん(75)は「子どもに負の遺産を残してはいけない」と憤った。一方、地元の自治会連合会長の松田満雄さん(74)は「雇用関係も含め、地域への経済波及効果は大きいと思う」と理解を示した。

 跡地の売買契約の早期締結を求めてきた呉商工会議所の若本祐昭会頭は「一歩前進。事業者が将来に希望を持つため、まずは防衛省が来ると確定することが大切」と強調した。この日も抗議活動を行った市民団体「日鉄呉跡地問題を考える会」の森芳郎共同代表(82)は「住民説明会が1回のみで合意形成もできていない。この結果は残念だ」と唇をかんだ。

 街中で声を拾うと、市民の複雑な思いも見えてきた。JR呉駅前にいた平原稔康さん(81)は「防衛施設というのは引っかかる」としつつ「市の人口が20万人を割り、他の産業誘致も難しい。国際情勢の不安定さを考えると仕方ない面はある」と述べた。80代女性は「防衛拠点ができれば少しは街に活気が出て若者が残ってくれるかもしれないが、有事に攻撃対象となる不安は拭えない」と吐露した。

(2025年5月17日朝刊掲載)

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