防衛拠点 景気浮揚に望み 呉市「住民の賛成意見 多数」
25年5月17日
呉市が16日に正式に受け入れ方針を表明した日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地での防衛省の複合防衛拠点整備案。市が決断した背景には、拠点整備による景気浮揚に望みを託す市議や地元経済会、市民たちの思いがあった。一方で、この日も市民団体が抗議。市の方針が賛否の溝を広げることも想定される。(高木潤、小林旦地)
「国への要望活動がやりやすくなる」。この日の市議会議会協議会(全員協議会)での採決で起立し、市による整備案の受け入れを了承した市議からは、市の表明に安堵(あんど)と期待交じりの意見が相次いだ。
市の人口は3月末時点で20万人を下回り、地場経済の低迷の懸念は根強い。そうした中で、防衛省案が雇用機会の拡大や地域活性化につながると評価する市議は多かった。呉商工会議所は先月、跡地購入の契約を早期に結ぶよう求める陳情書を防衛省に提出した。市の判断が遅いという意見も出ていた。
こうした状況に加え、今年4月に住民説明会を終えたことが、防衛省案の受け入れ表明への最後のピースとなった。新原芳明市長は協議会で「心配される意見もあったが、跡地に隣接する地域の住民を中心に賛成する意見が多数だった」と述べた。
また新原市長は協議会前日の15日、広島県の湯崎英彦知事に面会し、受け入れの意向を伝えた。防衛省案を「選択肢の一つ」としていた湯崎知事から「地元呉市の判断を尊重したい」との言質を得たことも、後押しになったとみられる。
ただ、拠点整備に反対する住民たちとの溝は埋まっていない。この日も市役所前では2度にわたり、抗議活動が行われた。協議会の中でも、市内各地で説明会を開くよう求める声が上がった。
新原市長は取材に対し「議論は尽くせないと思う」としながら「(市議の)9割が賛成なので、こういう進め方は民主主義としてはいいタイミングではないか」と述べた。住民説明会については「今後の展開に応じて考えていく」とした。
広島知事「呉市の判断尊重」
呉市が日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地への防衛省の複合防衛拠点整備案の受け入れを表明したことを受け、広島県の湯崎英彦知事は16日、報道陣の取材に「呉市の判断を尊重したい」と語った。一方、県としては「まだ中身が十分に分からないので、評価は難しい」と述べた。
湯崎知事は、防衛省案への賛否の考えを問われ「判断の材料がない中でニュートラル。選択肢の一つ」と強調。「これは多分に地元の課題として大きなものであり、市の判断を尊重する」と繰り返した。
防衛省側が「役割は終えた」とする県と市、日鉄、同省で整備案を話し合う4者協議については「民間誘致がまだ具体的に発表されていない。調整の余地がある」と継続を求めていく考えを示した。(野平慧一)
防衛省の複合防衛拠点の整備案
防衛省は2024年3月、呉市の日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区の跡地約130ヘクタールを一括購入し、装備品の整備・製造基盤、部隊の活動基盤、港湾―の3機能を備える構想を発表した。25年度予算案には、施設建設に向けた調査費4億6千万円を計上した。今年3月には県、市、日鉄との4者協議で、民間企業誘致エリア▽隊員が勤務する庁舎▽火薬庫―など計12のエリアに分けて活用する案を示した。
(2025年5月17日朝刊掲載)
「国への要望活動がやりやすくなる」。この日の市議会議会協議会(全員協議会)での採決で起立し、市による整備案の受け入れを了承した市議からは、市の表明に安堵(あんど)と期待交じりの意見が相次いだ。
市の人口は3月末時点で20万人を下回り、地場経済の低迷の懸念は根強い。そうした中で、防衛省案が雇用機会の拡大や地域活性化につながると評価する市議は多かった。呉商工会議所は先月、跡地購入の契約を早期に結ぶよう求める陳情書を防衛省に提出した。市の判断が遅いという意見も出ていた。
こうした状況に加え、今年4月に住民説明会を終えたことが、防衛省案の受け入れ表明への最後のピースとなった。新原芳明市長は協議会で「心配される意見もあったが、跡地に隣接する地域の住民を中心に賛成する意見が多数だった」と述べた。
また新原市長は協議会前日の15日、広島県の湯崎英彦知事に面会し、受け入れの意向を伝えた。防衛省案を「選択肢の一つ」としていた湯崎知事から「地元呉市の判断を尊重したい」との言質を得たことも、後押しになったとみられる。
ただ、拠点整備に反対する住民たちとの溝は埋まっていない。この日も市役所前では2度にわたり、抗議活動が行われた。協議会の中でも、市内各地で説明会を開くよう求める声が上がった。
新原市長は取材に対し「議論は尽くせないと思う」としながら「(市議の)9割が賛成なので、こういう進め方は民主主義としてはいいタイミングではないか」と述べた。住民説明会については「今後の展開に応じて考えていく」とした。
広島知事「呉市の判断尊重」
呉市が日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地への防衛省の複合防衛拠点整備案の受け入れを表明したことを受け、広島県の湯崎英彦知事は16日、報道陣の取材に「呉市の判断を尊重したい」と語った。一方、県としては「まだ中身が十分に分からないので、評価は難しい」と述べた。
湯崎知事は、防衛省案への賛否の考えを問われ「判断の材料がない中でニュートラル。選択肢の一つ」と強調。「これは多分に地元の課題として大きなものであり、市の判断を尊重する」と繰り返した。
防衛省側が「役割は終えた」とする県と市、日鉄、同省で整備案を話し合う4者協議については「民間誘致がまだ具体的に発表されていない。調整の余地がある」と継続を求めていく考えを示した。(野平慧一)
防衛省の複合防衛拠点の整備案
防衛省は2024年3月、呉市の日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区の跡地約130ヘクタールを一括購入し、装備品の整備・製造基盤、部隊の活動基盤、港湾―の3機能を備える構想を発表した。25年度予算案には、施設建設に向けた調査費4億6千万円を計上した。今年3月には県、市、日鉄との4者協議で、民間企業誘致エリア▽隊員が勤務する庁舎▽火薬庫―など計12のエリアに分けて活用する案を示した。
(2025年5月17日朝刊掲載)