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[使用済み核燃料どこへ] 文献調査「請願白紙に」 益田経済界有志 県市反対受け断念

 原発由来の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、第1段階の「文献調査」の受け入れに向けて市議会への請願を検討していた益田市の経済界の有志が20日、「請願は白紙に戻す」と明らかにした。島根県の丸山達也知事や益田市の山本浩章市長たちの強い反対を受けて断念を決めた。(永井友浩、桑田勇樹)

 有志の一人で益田商工会議所の松永和平会頭は取材に対し「検討段階で表面化し、一気に反対の動きが強まった」と説明。「最終処分場の誘致を求めるわけではなく、文献調査で地震や津波の被害の危険性を明らかにするとの主張が理解されなかった」と述べた。

 有志は市内の企業経営者9人で、2019年にエネルギー研究会を結成。自然エネルギーや電力の在り方を研究するうちに原発や核のごみにも関心を広げ、中国電力島根原発(松江市)や青森県六ケ所村の一時貯蔵施設を視察していた。

 請願の動きを全面的に中止するよう「勧告」していた山本市長は「確たる答えはまだもらっていない。確認する」とした。文献調査の受け入れに反対していた丸山知事は、この日の定例記者会見で、実際に断念したか判然としないとして「今後の活動をウオッチしていく」と述べた。

経済界の動きに拙さも

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を巡り、益田市で浮上した「文献調査」を求める経済界有志の動きが、白紙撤回に追い込まれた。

 益田商工会議所の松永和平会頭たち市内の企業経営者9人が、自然エネルギーや電力の在り方を研究する会を設立したのは6年前。テーマを徐々に広げ、原発の最終処分場の選定問題にも及んだ。

 適地を調査する原子力発電環境整備機構(NUMO)とも接触。「文献調査だけの応募もできる」。そんな感触を得て、受け入れの可能性を探り始めたという。最近は同商議所の会員の企業経営者たちも中国電力島根原発などの視察に参加し「理解を深めてもらっている段階だった」(松永会頭)。商議所の総会の決議を経て「経済界の総意」として市議会に請願する構えだった。

 ただ「最終処分場の誘致」と「文献調査」を切り離して検討したい、とする有志の考えは理解されなかった。島根県の丸山達也知事や益田市の山本浩章市長たちは、風評被害などを危惧して反対を表明。結果として、今回の経済界の動きには拙い印象も残る。

 最終処分場を巡っては、これまで高知県東洋町や長崎県対馬市などで構想が浮上。しかし、いずれも住民の反対などを背景に撤回されてきた。

 一方、これまで原発を60年近く稼働させてきた日本には、核のごみが大量に存在する。その後始末は、私たち社会が対峙(たいじ)しなければならない問題だ。

 原子力問題に詳しい東洋大の井上武史教授は「最終処分場は、国のエネルギー政策を進める上で不可欠な施設」と指摘。「今回の話を踏まえて、核のごみをどう解決すべきか考える機運を国全体でさらに高めていくべきだ」と訴える。 (永井友浩、編集委員・東海右佐衛門直柄)

核のごみ
 原発の使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す再処理の際に生じた廃液をガラスと混ぜ、固めた高レベル放射性廃棄物。国は地下300メートルより深い岩盤に金属容器や粘土で覆って数万年以上埋める処分を計画するが、処分場の候補地が長年決まらず「原発はトイレなきマンション」ともいわれる。

(2025年5月21日朝刊掲載)

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