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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 被爆体験を書くことは

 「私の体験は大したことないので」。被爆80年を時系列でたどる連載「ヒロシマ ドキュメント」を担当していて、被爆者や遺族に取材のお願いをした際の返事でよく聞く。「家族を亡くした人に比べれば」「孤児になったが祖父母がよくしてくれて」…。そう言われると言葉に詰まる。

 原爆の非人道性を伝える上で、悲惨な体験を取り上げる意味は大きい。1945年の「あの日」に見た凄絶(せいぜつ)な光景や、両親たち家族を奪われた後の流転の人生を聞くと身につまされる。一方で、「大したことないので」と声を上げにくかった人も少なからずいるのだと思う。

 「大したこと」の線引きは私にはできない。一人でも多くの被害者の声を集めてこそ、被爆の実態に迫れると信じている。その証言者たちは確実に減っている。(社会担当・下高充生)

(2025年5月21日朝刊掲載)

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