[世界バラ会議福山大会2025] 平和を求める心 伝える折りばら 福山の85歳宇田さん
25年5月22日
被爆死の父への思い胸に
バラの花を折り紙で表現した「折りばら」を通して、平和の大切さを訴え続ける男性が福山市にいる。市民でつくる折りばらの会の会員、宇田賢吉さん(85)=水呑町。原爆で父を亡くした自身の経験から、世界バラ会議福山大会に参加する海外の人たちに「平和を求める心を母国に持ち帰ってほしい」と望む。
大会開幕日の18日、市中心部であった福山ばら祭の会場。折りばら作りのブースで、来場者が真剣な表情で手を動かしていた。「折り目の一つ一つに平和を願って」。宇田さんは優しく声をかけながら複雑な工程を手ほどきし、「時間をかけて作るからこそ、込められた平和の思いが相手に伝わる」とほほ笑んだ。
「平和のシンボル」として市民の間で根付く折りばらは、イラク戦争さなかの2003年、ばら祭で開かれた折り紙のバラ作りのイベントから広まった。翌年、市民有志が同会を結成し、宇田さんも加わった。背中を押したのは、広島市で被爆死した父の存在だった。
1945年8月6日、父は爆心地近くで命を落とした。宇田さんは当時5歳。「戦争がもう10日早く終わっていたら、父と一緒に人生を歩めたのにと、今でも思う」と打ち明ける。自身も原爆から2日後、市街地の約8割が焼失した福山空襲を目の当たりにし、惨状は頭から離れない。
少年期、友人が「うちの父ちゃんがね…」と話しているのを聞くと、ひどく落ち込んだ。「自分には人並みの幸せもないのかと思いました」
同会の活動として福山市内の小学校に赴き、折りばらを教える。子どもたちに「戦争は前線で戦う兵隊だけでなく、民間人も犠牲になる。大切な親を殺された人の気持ちを考えてみて」と語りかける。大切そうに折り目をつける子どもを見ると「思いが伝わったな」と思える。
バラ会議の最終日となる24日、折り方を昨年学んだ児童が約300個の折りばらを参加者に1個ずつ手渡す。「自分と同じ境遇の子どもがこれ以上、生まれないようにしてほしい」と宇田さん。作品とともに、そこに込められた市民の思いも世界に広がることを切に願う。(頼金育美)
(2025年5月22日朝刊掲載)