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ムシカのピアノ 京都で奏でる平和 広島から移設 コンサート 市民ら聞き入る

 広島の戦後復興史に刻まれた「第九伝説」で知られ、2020年3月に惜しまれつつ閉店した純音楽茶房ムシカ。ゆかりのピアノが4年前、京都府福知山市に渡り、市民たちの間で「平和のピアノ」として親しまれている。16日にあったコンサートを取材した。(西村文)

 福知山城に近い民間の情報発信館「さんの丸」の2階。会場に詰めかけた聴衆を前に、米国出身のヤエル・ワイスさんが、ムシカのピアノを弾き始めた。曲は、ベートーベンの旋律を基にしたウクライナ人作曲家による現代作品。アウシュビッツ強制収容所を生き延びた祖父母を持つピアニストは、鍵盤を弾く指に激情を込めた。

 平和をテーマに掲げたこのコンサートでは、広島市出身の被爆3世のバイオリニスト木村瑠菜さんが独奏を披露し、地元在住のピアニスト増本あつ子さんと、バイオリニスト寺井京子さんのデュオも出演。客席には福知山市の副市長2人と、隣接する綾部市の元市長も駆け付けた。

 増本さんの夫、展祥(のぶよし)さんもピアノの音色に聞き入った。1歳の時、現在の広島市西区高須で家族と共に原爆に遭った被爆者だ。修道高(中区)時代は中区胡町にあったムシカを訪れ、レコードでクラシック音楽に親しんだ。「父が音楽好きで、母や兄もムシカに通っていた。福知山に住んで約20年になりますが、懐かしいですね」

 被爆翌年の1946年8月に猿猴橋町(南区)で開店したムシカは、その年の大みそかにベートーベンの交響曲第9番のレコードをかけ、原爆で傷ついた人々を勇気づけた。55年に胡町に移転、一時閉店や移転を経て2000年に南区西蟹屋で再開した。その際、新たにグランドピアノを店内の貸しホールに設置。20年の閉店まで多数のコンサートが催された。

 このホールを愛用していた若手音楽家支援の団体MCSヤング・アーティスツ(東京都)が「ムシカの歴史を継承してほしい」とピアノの設置場所を探し、平和活動が盛んな福知山市に渡ることになった。

 さんの丸を運営する会社「むらいち」の村上裕子社長は「ピアノを大切に守っていくと同時に、音色に触れてもらえるようコンサートを開き、広島との交流も深めていきたい」と話していた。

(2025年5月24日朝刊掲載)

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