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連載・特集

緑地帯 黒住(國本)奏 平和を学ぶ旅①

 広島で生まれ育った私の周りには、いつも「平和」という言葉があった。学校では平和教育の時間があり、1945年の広島、長崎で何が起きたのかを学び考える中で、「平和」という言葉をごく当たり前に使っていた。海外に暮らし、外から広島を見たとき、私の故郷は、世界中で知られる場所「ヒロシマ」で、その存在を再び見つめ直すようになっていった。

 私は現在、広島市内の大学の非常勤講師や平和教育プログラムのディレクターとして活動しているが、「平和」という言葉に向き合うきっかけになったのは、被爆証言の通訳だった。帰国後、友人のおばあちゃんで被爆者の照子さんに出会った。ある時、証言が始まる前に照子さんが言った。「あなたの通訳だったらね、私は安心して話ができるんよ。ちゃんと伝えてくれとるってわかるけんね。私の専属通訳じゃね」。そうほほ笑んで照子さんは話し始めた。照子さんの思いを、できるだけそのまま伝える声にならんといけん! と思うと同時に、魂の底から発せられる「平和」という言葉の重みがズッシリときた。

 私は今までこの言葉が持つ意味をちゃんと考えてきたのだろうか? それ以来、自分自身の言葉として「平和」という言葉が使えなくなっていった。この時から、「平和って何?」という大きな問いの答えを探し求める私の旅が始まった。(くろずみ〈くにもと〉・かなで 平和教育ファシリテーター=広島市)

(2025年5月28日朝刊掲載)

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