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連載・特集

緑地帯 黒住(國本)奏 平和を学ぶ旅②

 本川沿いに並ぶ夾竹桃(きょうちくとう)の木々が赤や白の花をつけ始めると、今年もヒロシマの夏がやってくるのだなあと思う。広島の再生を象徴するこの花は、英語でオリアンダーという。私は2017年から毎年夏に、教育を通して平和の種まきをしている人に向けたオリアンダーイニシアチブという平和教育プログラムを企画運営している。この夾竹桃の花を見るといつも、広島で共に学びの空間を創った中東、北アフリカ、そしてアメリカの先生たちのことを懐かしく思う。

 だらだらと汗をかきながら一緒に広島の町を歩き、広島の声を聞き、言葉を交わし、学び合う。一日の終わりに感じたことや考えたことを、対話を通して参加者全員で共有する。そんな濃厚な時間の中で、彼らは自分が暮らす町が抱えている痛みや思いもたくさん話してくれた。

 「自分の話ばかりしてごめんなさい。でも、広島の地にいると、私の声も聞いてもらえるような気がして。みんな聞いてくれてありがとう」と、中東から来た中学校の先生が少し申し訳なさそうに言った。

 「平和都市」と呼ばれる広島の街は、「平和」への思いを声にして発するだけの場所ではなく、世界中のいろんな声を聞くことができる場所、世界中のいろんな痛みを抱きしめることができる場所なのかもしれない。先生たちは、それぞれの教室に帰って、広島の声を届けてくれている。だから私も、先生たちの声をずっと忘れずにいようと思う。(平和教育ファシリテーター=広島市)

(2025年5月29日朝刊掲載)

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