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社説・コラム

『書評』 郷土の本 被爆伝える広場 創った日独市民

 ドイツ・ベルリン郊外ポツダムに被爆地の名を冠した広場がある。「ヒロシマ・ナガサキ広場」。歴史の教訓を胸に刻もうと、日独市民が手を携え、創った空間だ。その歩みを、ベルリン在住のジャーナリストふくもとまさおさん(68)が「『小さな平和』を求めて」にまとめた。自身も関わってきた草の根の取り組みを、現地の息遣いとともに伝えている。

 広場は1945年のポツダム会談の際、トルーマン米大統領(当時)が滞在した邸宅前にある。会談期間中に、トルーマン氏が原爆実験成功の知らせを受けたと知った地元市民が「記憶にとどめよう」と市議会に要請し2005年に命名。広島や在独の被爆者も募金活動などで協力し、10年には核廃絶の願いを刻む記念碑もできた。

 関係者の多くは世を去ったが、この広場によって、現地の人々は日常的に広島・長崎の記憶に思いを致すのだという。

 世界を戦禍が覆い、核使用まで懸念される今、「『小さな平和』の意義はますます大きくなっている」とふくもとさん。市民の力に希望を託す。あけび書房、2200円。(森田裕美)

(2025年6月1日朝刊掲載)

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