平和を築く 草の根で60年 広島のNPOワールド・フレンドシップ・センター
25年6月10日
被爆地の声 世界へ届ける
設立60周年を8月に迎える広島市中区のNPO法人ワールド・フレンドシップ・センター(WFC)は、原爆の惨禍と平和の大切さを草の根で伝え続けている。設立の中心になった米国人平和活動家のバーバラ・レイノルズさんの思いを引き継ぎ、ヒロシマを学ぶ国内外の人たちを受け入れる。(山本祐司)
WFCが力を入れる活動の一つに被爆者の証言会がある。WFCの施設に宿泊したニュージーランドの旅行者3人が5月末、リビングで耳を傾けていた。「たみさん」と呼ばれる西区の岡原民幸さん(86)が、父の被爆体験を和やかな雰囲気の中で語る。
岡原さんは約20年前からWFCで英会話を習い、2014年ごろに英語での証言を始めた。この日も亡き父が爆心地から約800メートルで頭に大けがを負い、後に放射線による急性障害にさいなまれた様子を身ぶり手ぶりを交えて説明した。
真剣な表情で聞いた元編集者のスーザン・ブライリーさん(71)は「たみさんの証言は絶対忘れない。WFCでの出会いのように、地道に多様な友達をつくることが平和への力強い鎖になる」と話した。24年10月に移転した現事務所に併設する簡易宿泊施設には、今年5月までに米国や英国、ドイツ、韓国など11カ国50人が滞在している。
こんな交流の光景が60年前にもあったに違いない。被爆地の声を世界へ届けるWFCの取り組みは、1962、64年に被爆者たちが米国や欧州などを回った世界平和巡礼が源流になった。
レイノルズさんは65年8月7日、巡礼に参加した被爆者たちと共にWFCを設立した。巡礼メンバーでWFC名誉理事長の森下弘さん(94)=佐伯区=は「現地で体験を話すだけでなく、相手の平和への考え方を学んだ。巡礼での経験をどう実らせるかが課題だと話し合った」と振り返る。
67年発行の最初の活動報告書がWFCに保管されている。高齢の被爆者に施設を開放して共同生活を営む福祉サービスや、手作りの工芸品を並べたバザーなどの活動実績を英語で記す。被爆者の多くが「定職に就くには虚弱で、病院でのケアが必要」とし、「自尊心とまともな生活ができる機会を与える組合をつくりたい」と展望した。
WFCの活動はその後、平和記念公園(中区)のガイドや被爆樹木を巡るツアーなどにも広がった。活動を物心両面で支える会員は約120人。森下さんは、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザの戦闘などを踏まえ「世界情勢は深刻だが、活動の継続がWFCの使命」と今後を見据える。それがレイノルズさんの「遺志」と受け止めている。
人々の思い 重なった 理事長の立花さん
WFCのこれまでの歩みと今後の活動について、理事長の立花志瑞雄(しずお)さん(69)に聞いた。
核兵器や戦争のない世界を望む被爆者や多くの人の気持ちが積み重なって活動が続けられた。その思いを大切にしたい。
WFCは被爆者を経済的、精神的に支えたいという目的で発足した。被爆者の抱える苦しみは時代とともに変化したかもしれないが、被爆者のために何ができるかという視点は持ち続けている。
私も父が被爆した。平和活動に関わりたくて1980年代からWFCに参加するようになった。被爆者自らが語れなくなる時がいずれ来る。海外から訪れた人が広島で感じたことや平和について話し合う場を提供したり、被爆体験をビデオや詩などで伝えたり今後もできることはある。
60年前、広島の市民が手を取り合ってWFCは生まれた。再びさまざまな市民グループと協力し、一丸となって世界平和を目指したい。
14日 記念イベント
WFCは14日午前10時、広島市中区のJMSアステールプラザで設立60周年の記念イベントを開く。無料。
創設者のバーバラ・レイノルズさんの長女ジェシカさんや歴代館長によるビデオメッセージを映し、戯曲「父と暮せば」の朗読劇(英語の字幕付き)を上演する。
レイノルズさんの誕生日で、2011年に記念碑が除幕された6月12日に合わせた。WFC事務所☎082(503)3191。
≪WFCに関する主な動き≫
1962年 初回の世界平和巡礼
64年 2回目の広島・長崎世界平和巡礼
65年 WFC発足。原田東岷(とうみん)さんが初代理事長
に就く
69年 バーバラ・レイノルズさんが帰国
70年 3回目の世界平和巡礼。その後も継続
75年 米オハイオ州のウィルミントン大に「広島・長崎記念
文庫」開設。レイノルズさんの収集資料を中心に所蔵
レイノルズさんが広島市の特別名誉市民に
90年 レイノルズさんが74歳で死去
91年 平和使節交換のプログラムを開始
95年 設立30周年の「希望を讃(たた)える芸術展」を開
催
2000年 谷本清平和賞を受賞
09年 NPO法人化
11年 レイノルズさんの記念碑が平和記念公園の南側で除幕
24年 事務所を現在地へ移転
(2025年6月10日朝刊掲載)
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