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社説・コラム

[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「戦友会狂騒曲(ラプソディー)」 遠藤美幸著(地平社)

継承とは何か 今に問う

 第2次大戦での敗戦から80年となる今、戦地に赴いた将兵は若くても90代後半。戦場を体験した多くはすでに世を去った。軍生活を共にした人々でつくる「戦友会」は、ほぼ消滅している。

 本書は、ある戦友会の「終焉(しゅうえん)」までのリポートである。著者はビルマ戦史研究者。戦場体験の聞き取りを続けてきた縁で20年前、東京の「勇会」の「お世話係」に任命された。戦友会と聞くと、戦争を懐かしむ保守的な高齢男性が思い浮かぶ。だが著者は、体験もなければ遺族でもない立場から会に深く分け入り、複雑で多様な戦場体験や戦後社会を見つめる。

 「勇会」の転機は、2010年。会員の高齢化に伴い、戦後生まれの部外者に門戸を開く。すると、戦争賛美の歴史認識を勇ましく語る若い世代が参入し、会を変質させたという。彼らが元将兵たちの歓心を買おうと繰り広げる言動は、残酷な戦場を身をもって体験した者を遠ざけ、最終的に閉会へと追い込む。

 そうした経過を含め、著者が元将兵らに寄り添い、実感としてつづる言葉は、記憶の継承を試みる者にとって、示唆に富む。〈どんなに膨大な資料を検討しても、長きにわたり耳を傾けてきても(略)到底わからないということが腹に落ちるまでには、相当の時間と労力を要した〉〈加害を語らない(語れない)元兵士を断罪し、「反省が足らない」とわかったつもりでいる人たちも、ある意味、薄っぺらな理解であるかもしれない〉

 二項対立に当てはめたりラベルを貼ったりして理解した気になってしまう次代への戒めだ。そもそも「継承」とは何かという根源的な問いから考えてみるべき―。著者の投げかけが胸に刺さる。

これも!

①蘭信三・小倉康嗣・今野日出晴編著「なぜ戦争体験を継承するのか」
②吉田裕著「日本軍兵士」(中公新書)
③吉田裕著「続・日本軍兵士」(同)

(2025年6月10日朝刊掲載)

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