同世代の犠牲 伝える展示案 原爆資料館 子ども向けスペースで議論 有識者会議初会合
25年6月13日
広島市が原爆資料館(中区)東館地下1階に新設する子ども向けの展示スペースについて、内容や改修方針を議論する有識者検討会議が12日、中区の広島国際会議場で初会合を開いた。「伸ちゃんの三輪車」など同世代の犠牲を伝える常設展示の資料を並べる案が示され、委員が意見を出し合った。2028年度の見学開始を目指し、26年度末まで6回議論を重ねる。(樋口浩二)
教育学や社会学、臨床心理学を専門とする大学教授、小中学校教員、被爆者たち委員全11人が参加。事務局を務める広島平和文化センターの担当者から会議室と特別展示室の計3室約500平方メートルを改修する方向性について説明を受けた。
展示内容については、混雑して常設展示をじっくり見られないとして、3歳の時に被爆死した鉄谷伸一ちゃんの三輪車のレプリカや、被爆10年後に白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんの折り鶴を置く案などが示された。賛同者がいた一方、「できるだけ本物を見せたい」との声が出た。収蔵庫にある資料の活用や、子どもの心理的負担も論点になった。
次回の会議は10月の見込み。委員長に就いた広島大の鈴木由美子理事・副学長(教育・平和担当)は「子どもがしっかり時間を取って学びを深め、自ら発信できる展示にしたい」と話した。
広島市が原爆資料館に子ども向けの展示スペースを新設する背景には、入館者の増加による混雑に伴い、資料をじっくり見学しにくくなっている現状がある。被爆の実態を次の世代に継承するため、訴求力ある展示をどうつくるのか。心理的な影響を踏まえた惨状の伝え方も焦点になる。
12日も館内は大勢の入館者で混み合っていた。遺品などの資料を見ながら、展示ケースの上でワークシートに感想を書き込む児童の姿も。大阪府豊中市の小学校を引率していた城戸直美教諭は「どこも並んでいて通路が狭い。ショッキングな写真を見た子が休憩できるスペースもあると助かる」と話した。
広島平和文化センターが2022、23年に修学旅行で訪れた小中高校計1121校を対象にしたアンケートでも「子どもたちが立ち止まって見ることができない」などと混雑解消を求める声が目立った。約6割の学校は修学旅行生の先行予約制の導入を求めた。
24年度は過去最多の約226万人が入館。うち修学旅行など小中高校生の団体は33万1千人で、市などは若い世代のさらなる誘致に力を入れている。25年4月も入館者は前年同月比2割増で環境の整備が課題だ。
新展示の有識者検討会議では、人の被害を伝える写真などが子どもに与える心理的影響も論点になった。委員で被爆者の内藤慎吾さん(86)=南区=は「凄惨(せいさん)な場面を伝えてこそ、核兵器の悲惨さが伝わる」。広島大大学院の上手由香准教授(臨床心理学)は「繊細な子もいる。安心できるスペースを明示した方が良い」と説いた。
資料館は1955年8月に開館。3回の大規模改修を重ね、原爆の悲惨さをリアルに感じてもらうのに試行錯誤を続けてきた。被爆直後の惨状を模した「被爆再現人形」を巡っては、「実物重視」の方針により市が13年に撤去を発表すると、反対署名が起きた。
副委員長で奈良女子大研究院の小川伸彦教授(社会学)は「子どもを子ども扱いせず、残酷なものを隠してはいけない。子どもこそが未来の平和を担う」と強調した。(樋口浩二、加納亜弥)
(2025年6月13日朝刊掲載)
教育学や社会学、臨床心理学を専門とする大学教授、小中学校教員、被爆者たち委員全11人が参加。事務局を務める広島平和文化センターの担当者から会議室と特別展示室の計3室約500平方メートルを改修する方向性について説明を受けた。
展示内容については、混雑して常設展示をじっくり見られないとして、3歳の時に被爆死した鉄谷伸一ちゃんの三輪車のレプリカや、被爆10年後に白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんの折り鶴を置く案などが示された。賛同者がいた一方、「できるだけ本物を見せたい」との声が出た。収蔵庫にある資料の活用や、子どもの心理的負担も論点になった。
次回の会議は10月の見込み。委員長に就いた広島大の鈴木由美子理事・副学長(教育・平和担当)は「子どもがしっかり時間を取って学びを深め、自ら発信できる展示にしたい」と話した。
見学環境の整備課題 児童の心理的負担も論点に
広島市が原爆資料館に子ども向けの展示スペースを新設する背景には、入館者の増加による混雑に伴い、資料をじっくり見学しにくくなっている現状がある。被爆の実態を次の世代に継承するため、訴求力ある展示をどうつくるのか。心理的な影響を踏まえた惨状の伝え方も焦点になる。
12日も館内は大勢の入館者で混み合っていた。遺品などの資料を見ながら、展示ケースの上でワークシートに感想を書き込む児童の姿も。大阪府豊中市の小学校を引率していた城戸直美教諭は「どこも並んでいて通路が狭い。ショッキングな写真を見た子が休憩できるスペースもあると助かる」と話した。
広島平和文化センターが2022、23年に修学旅行で訪れた小中高校計1121校を対象にしたアンケートでも「子どもたちが立ち止まって見ることができない」などと混雑解消を求める声が目立った。約6割の学校は修学旅行生の先行予約制の導入を求めた。
24年度は過去最多の約226万人が入館。うち修学旅行など小中高校生の団体は33万1千人で、市などは若い世代のさらなる誘致に力を入れている。25年4月も入館者は前年同月比2割増で環境の整備が課題だ。
新展示の有識者検討会議では、人の被害を伝える写真などが子どもに与える心理的影響も論点になった。委員で被爆者の内藤慎吾さん(86)=南区=は「凄惨(せいさん)な場面を伝えてこそ、核兵器の悲惨さが伝わる」。広島大大学院の上手由香准教授(臨床心理学)は「繊細な子もいる。安心できるスペースを明示した方が良い」と説いた。
資料館は1955年8月に開館。3回の大規模改修を重ね、原爆の悲惨さをリアルに感じてもらうのに試行錯誤を続けてきた。被爆直後の惨状を模した「被爆再現人形」を巡っては、「実物重視」の方針により市が13年に撤去を発表すると、反対署名が起きた。
副委員長で奈良女子大研究院の小川伸彦教授(社会学)は「子どもを子ども扱いせず、残酷なものを隠してはいけない。子どもこそが未来の平和を担う」と強調した。(樋口浩二、加納亜弥)
(2025年6月13日朝刊掲載)