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社説・コラム

社説 イスラエルのイラン攻撃 武力行使を即刻やめよ

 イスラエルの暴挙には怒りと失望を禁じ得ない。

 きのう、イスラエルがイランの核関連施設などを空爆し、イランも無人機による攻撃で応じた。軍事大国同士の衝突は、中東全体を巻き込んだ大規模な戦争への引き金になりかねない。不毛な武力行使は即刻やめるべきだ。

 とりわけ見過ごせないのはイスラエルがイランのウラン濃縮施設などを攻撃した点だ。核汚染の被害は報道されていないとはいえ、極めて危険で許されざる行為である。国際法違反の疑いも強い。

 広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長は「核戦争に迫っているのではないか」と危機感をあらわにした。80年前の惨禍を知る被爆者の共通の思いだろう。改めて強く抗議する。

 イスラエルはイランの核兵器開発の阻止を理由に挙げたが、力ずくで根本的な解決が図れるはずはない。核保有国のイスラエル自身を含め、中東の非核化は対話と外交努力で実現せねばならない。

 イスラエルは1981年にイラクの核施設を先制攻撃した前例がある。イランともさや当てを繰り返してきたが、今回は核施設攻撃に加えて軍の参謀総長や革命防衛隊トップ、複数の核科学者を殺害するなど、明らかに一線を踏み越えた。大きな要因がイランと米国との核協議だろう。

 国際原子力機関(IAEA)によれば、イランは濃縮度60%のウランを400キロ以上も貯蔵。兵器級の90%に高めれば核爆弾9発分に相当するという。ただ、イランは平和目的だとする主張を崩さず、濃縮活動の完全停止を求めた米国との協議は5回を経ても進展しなかった。

 トランプ米大統領はここにきて合意に「自信がない」と表明。イランには低い濃縮度でのウラン製造を認めたとも報道された。イスラエルのネタニヤフ首相が合意前に先手を打った形だが、米外交の面目をつぶした行動には厳しく対応する必要があろう。

 ネタニヤフ氏はパレスチナ自治区ガザを執拗(しつよう)に攻撃し、国内外から批判を浴びている。国民の不満をイランに向けるのが目的ならば、一層許されることではない。

 本をただせば1期目のトランプ氏の愚挙に行き着く。2015年にIAEAの折り紙付きで成就した米欧とイランの核合意から一方的に離脱。再び経済制裁を科した。無責任な振る舞いが中東の安定を乱し「火薬庫」として温存させたことには猛省が必要だ。

 イスラエルは、国際社会が認めていない核弾頭を90も持つ。核施設を標的にした以上、自らの核施設も攻撃対象となりかねない。この際、自国を棚上げして他国に核開発を禁じる矛盾を認め、核兵器と決別してはどうか。イランをはじめ周辺国が核開発を急ぐ理由も消えるはずだ。

 日本政府も力を尽くすべき局面だ。イスラエルがイランやガザで暴走を続けるなら、後ろ盾である米国に武器や情報提供の見直しを迫るべきだろう。伝統的に友好関係を保ってきたイランにも、報復の連鎖が招くデメリットを粘り強く訴えていく必要がある。

(2025年6月14日朝刊掲載)

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