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連載・特集

朝凪(あさなぎ) 懐かしい亡き祖母の字

 もしかしたら、あるかもしれない。5月、亡き祖母の名前を、被爆者の体験記を集める国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)で探した。見覚えのある字はあった。祖母が30年前に「あの日」のことをつづっていたことを知った。

 被爆体験を聞いたのは、中学生の時だったと思う。爆心地に程近い場所で、家屋の下敷きになりながら、なんとか逃げたこと。絞り出すように語ってくれた。いつもは優しい祖母の涙をこらえる顔を初めて見た。それ以上は、その後も尋ねることはできなかった。

 体験記には私が聞いていないことも書いてあった。祖母は当時どんな気持ちだったのか。もう聞くことはできない。今、被爆者の体験や戦後の暮らしを取材するたび、聞き逃すまいと耳を傾ける。祖母の顔が思い浮かぶ。(社会担当・馬上稔子)

(2025年6月14日朝刊掲載)

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