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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 「げんばくどーむ」と私

 「げんばくどーむ」は、幼少の私にとって憧れにも似た響きを持っていた。3歳だった1987年4月26日。ともに小学生の兄と姉が父に連れられて福岡の実家から日帰りで訪れ、発熱した私は留守番。後に父から聞き、「新幹線に乗って行ってみたかった」とうらやんだ。

 思い出したのは、今春の転居で一枚のカラー写真を見つけたから。神妙な面持ちの兄と姉が原爆ドームと相生通りを背に立つ。シャッターを切った父は「広島で起きたことを知ってほしい」と2人を原爆資料館にも連れて行った。

 大学進学を機に広島に定着した私。今では写真の地を毎週訪れ、被爆の「証人」のそばで外国人や修学旅行生に話を聞く。人けのない38年前とは様変わりした一帯で、広島の惨禍に心揺さぶられた人たちの声を刻んでいる。(社会担当・樋口浩二)

(2025年6月17日朝刊掲載)

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