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社説・コラム

社説 G7とイスラエル 戦闘の停止が最優先だ

 カナダで開かれていた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。イスラエルとイランの紛争への対応を理由にトランプ米大統領が途中退席し、首脳宣言のとりまとめが見送られた。停戦に向けた明確な意思を打ち出せなかったG7は、存在意義を失ったと言うほかない。

 原因が多国間連携を軽視するトランプ氏にあるのは明らかだ。他の6カ国は米国をG7の枠組みにとどめるのに精いっぱいだった。それを象徴するのが初日出された中東情勢に関する共同声明である。

 イスラエルの「自衛権」を支持し、イランの核兵器保有を「決して容認しない」と強調した。イスラエル側に立つ米国に配慮した内容だ。

 イスラエルがイランの核関連施設などを攻撃した13日以降、両国の軍事的応酬は激しさを増している。イスラエルによる石油関連施設やテレビ局などを狙った攻撃は目に余る。これらを自衛権として正当化していいはずがない。

 イランを「地域の不安定やテロの源だ」と一方的に非難するだけで、双方に自制を直接求める文言がなかったことには深く失望する。戦闘の停止が最優先であり、欧州首脳のイスラエル寄りの姿勢に違和感を抱かざるを得ない。

 もちろん核開発を進めて中東の緊張感を高めたイランの責任は大きい。しかし、イランは米国と交渉を続けていた。イスラエルへの脅威が差し迫っていたと言えるのか。

 イスラエルが核兵器を持っているのは公然の秘密だが、公式に認めず説明責任も果たしていない。それを不問にしてイランに核開発の放棄を迫るのは明らかに二重基準だ。

 また欧米はロシアのウクライナ侵攻を国際法違反と非難する一方、パレスチナ自治区ガザへの執拗(しつよう)な攻撃に目をつむりイスラエル擁護の姿勢を取ってきた。こちらも二重基準で、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国から一層の不信を招くのではないか。

 日本はG7で唯一、イスラエルのイラン核関連施設攻撃を明確に非難した。だがサミットで石破茂首相は「事態の沈静化に向けた外交努力」の重要性を述べただけだ。被爆国としての姿勢を示すのが筋ではないか。トランプ氏との日米首脳会談では中東情勢が協議された形跡がない。腰の引けた日本の対応も、G7の形骸化を象徴するようだ。

 首脳宣言に加え、ロシアのウクライナ侵攻を巡っても文書を残せなかった。首脳間の対立を避ける形式的な会議では世界が直面する課題に向き合えない。米国が経済的、軍事的に強大であるとはいえ、トランプ氏の顔色をうかがうような対応は極めて残念だ。

 先進国首脳が50年もの間、膝を突き合わせて議論を続けてきたのは、平和や自由、法の支配などの基本的価値を守り、結束によって国際社会を先導するためだったはずだ。

 各国は立て直しに向けてG7の意義と役割を再確認してもらいたい。今からでも遅くない。中東全域に危機を拡大させないようイスラエルに強く自制を求め、外交による解決の道を探るべきだ。

(2025年6月19日朝刊掲載)

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