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社説・コラム

社説 両陛下広島訪問 慰霊の旅 さらに意味重く

 天皇、皇后両陛下がきのう広島入りし、平和記念公園で原爆の犠牲者を慰霊された。原爆慰霊碑に花をささげて深々と頭を下げる、お二人の姿が印象的だった。

 天皇陛下にとっては2019年の即位後、初めての広島訪問である。戦後生まれの陛下は浩宮時代、皇太子時代を通じて繰り返し被爆地を訪れてきた。広島の慰霊碑前に立つのは19年ぶりとなる。

 日本国の象徴であり、国民統合の象徴である天皇陛下が人類初の被爆地を訪れる意義は、言うまでもなく大きい。まして今回は戦後80年の節目に当たっての「慰霊の旅」の一つに位置付けられる。

 両陛下は原爆の惨禍を改めて直視されたのではないか。繁華街だった被爆前の町並みの痕跡を伝える被爆遺構展示館に続いて、原爆資料館を見学。高齢を押して証言活動を続ける被爆者たちの話に耳を傾け、長年の苦労や健康を気遣ったという。また被爆者の代わりに語り継ぐ「伝承者」たちと懇談し、活動を励まされたことも目を引いた。

 戦争をじかに知る世代の高齢化は著しい。今回の訪問計画は継承の営みへの天皇陛下の期待を映したのだろうか。広島訪問の前には来日中のドイツのシュタインマイヤー大統領との会見で「過去と向き合って、次の世代に伝えてくことが非常に重要だと考えている」と述べている。

 きょう両陛下は11年前の広島土砂災害の被災地とともに原爆養護ホーム「矢野おりづる園」も訪れ、入所する被爆者と会われる予定だ。

 思い返すのが天皇ご一家の広島・長崎への思いの深さである。被爆50年の節目に上皇ご夫妻が天皇、皇后両陛下として広島入りした姿が頭に浮かぶ。上皇さまは退位までに広島市内の四つの原爆養護ホームは全て訪れた。

 その上皇さまは、戦争責任を巡って苦悩された昭和天皇の跡を継いだ。記憶しなければならない「四つの日」を挙げていた。沖縄戦が終結した6月23日と広島原爆の8月6日、長崎原爆の8月9日、終戦を迎えた8月15日である。今の天皇陛下も幼い頃から、それぞれ黙とうしたという。その中で被爆地への関心も高まったのかもしれない。

 長女愛子さまにも受け継がれていると思いたい。中学時代の広島への修学旅行の思い出を8年前の卒業文集につづっている。原爆への怒り、悲しみとともに「唯一の被爆国に生まれた私たち日本人は、自分の目で見て、感じたことを世界に広く発信していく必要があると思う」という言葉が報じられた。うなずいた人も多いのではないか。

 戦後50年、60年、70年と、国内外の戦禍の地を訪ねた上皇ご夫妻の足跡に倣う形で、戦後80年の両陛下の慰霊の旅は始まった。4月の硫黄島に続く今月上旬の沖縄訪問には愛子さまも同行した。

 9月に長崎訪問を控える。二つの被爆地に赴くことで、慰霊の旅の意味はさらに重くなろう。苦難の道を歩んだ人に心を寄せ、平和の大切さを胸に刻む―。戦後を生き抜いた国民の願いでもあろう。

(2025年6月20日朝刊掲載)

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