天風録 『ギャバード長官』
25年6月20日
G7サミット開催地のカナダからとんぼ返りする専用機内で、トランプ米大統領が記者団の質問にへそを曲げたそうだ。取材の的は、ギャバード米国家情報長官の上院公聴会での証言だった。「情報機関は、イランが核兵器を製造していないと分析している」▲大統領は「どうでもいい話」と鼻白み、イランが「核兵器を保有する寸前」と言い張ったという。二十数年前に米政権がかいた大恥をお忘れなのか。大量破壊兵器の有無を巡る真っ赤なうそでイラク戦争を正当化した▲身内からの「忠告」に耳をふさぎ、根拠不明の自説にすがる神経が知れない。その人を最高司令官に仰ぐ米軍を駆り出し、イランの地中深くにある核施設を攻撃させる案が急浮上している▲ギャバード長官は先週、内外の度肝を抜いた人でもある。核大国の閣僚としては珍しく核兵器の廃絶を訴えた。最近、広島をお忍びで訪ねたらしい。被爆の惨状を目の当たりにした成果なら、かいがあるというものだ▲核施設への攻撃は核被害をもたらす。広島市の原爆資料館の一角で、被爆からの日数を刻む地球平和監視時計はきのう2万9172日を記した。世界終末時計の進み具合も、気が気でない。
(2025年6月20日朝刊掲載)
(2025年6月20日朝刊掲載)