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社説・コラム

社説 米、イラン核施設空爆 中東の戦火広げる暴挙だ

 米軍はきのう、イランの核施設3カ所を空爆した。トランプ米大統領は国民に向けた演説で、主要施設が「完全に破壊された」と強調した。イランの反発は必至な情勢だ。戦火を広げる暴挙にほかならない。

 イスラエルとイランの交戦に核超大国が加担したことで、中東情勢は重大な局面を迎えた。イランは今後、中東の米軍基地を標的にする可能性がある。トランプ氏は圧倒的な軍事力で対応する姿勢を示しており、報復の連鎖が続きかねない。混迷が深まる中で、国際社会は交戦の拡大を食い止めなければならない。

 イスラエル軍がイランに攻撃を始めたのは13日。トランプ氏は19日に、攻撃に踏み切るかどうかを2週間以内に判断すると表明していた。その期限を待たずに攻撃に踏み切ったことは大きな衝撃だ。

 主要なウラン濃縮施設が焦点となっていた中部フォルドゥでは、地下深くにある施設を特殊貫通弾(バンカーバスター)で攻撃したという。イスラエル空軍では完全に破壊することができず、米国の介入を求めていたとみられる。

 核関連施設への攻撃は、放射性物質が拡散する恐れがあり、見過ごせない。国際法違反の疑いも強い。国際原子力機関(IAEA)はこれまでのイスラエルによる攻撃に対して「最も強い言葉」で非難していた。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「平和は強さによって実現する」と語っていた。だが、軍事力で屈服を迫る手法では、相手国の納得を得られるはずがない。

 そもそも核兵器の脅威をなくすために、核施設を攻撃するという発想は許し難い。イランは既にウラン濃縮の技術を持っており、そのノウハウは軍事攻撃で消し去ることはできない。追い詰めたことで逆に、防衛のために核兵器製造の意思を固めさせる恐れがあるのではないか。

 トランプ氏はこれまで中東への軍事介入が泥沼化した過去の政権を批判していた。支持基盤の保守層も、海外の戦争への加担は求めない傾向が強い。今回、イランとの核協議を進める上で、イスラエルにイラン攻撃を自制するよう促していたはずだった。

 方針転換の背景には何があったのだろうか。イラン側に考える猶予を与えないかのような突然の攻撃には疑問が尽きない。

 イスラエルと米国は「イランの核の脅威」を訴える。だとしても、米国がイランを攻撃する大義名分になるかどうかについて、米議会や国際社会に理解を求めるプロセスは不十分だった。トランプ氏は米国が歴史的に大切にしてきた民主的な手続きを軽んじた。独裁国家のように重要な軍事行動を決め、実行に移したことに背筋が寒くなる。

 被爆国であり、原油の9割以上を中東に依存する日本にとっても人ごとではない。中東情勢の悪化はエネルギー安全保障に直結する。イランと伝統的に友好な関係も生かして、中東の戦闘が一刻も早く収まるよう、外交努力を尽くすべきだ。

(2025年6月23日朝刊掲載)

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