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米がイラン核施設空爆 識者に聞く

 イスラエルに続く、米軍によるイラン核施設の攻撃が、国際社会や核情勢に与える影響は計り知れない。この状況をどう受け止め、被爆地は今、何を訴えるべきか。広島市立大広島平和研究所の梅原季哉(としや)教授(国際関係論)と、元長崎大核兵器廃絶研究センター長で原子力政策に詳しいNPO法人ピースデポ(横浜市)の鈴木達治郎代表に聞いた。

広島市立大広島平和研究所 梅原季哉教授

力むき出し国際秩序破壊

 米国は、一線を越えてしまったといえる。イスラエルとイランの争いにおいて米国は第三国で、国際法上は参戦の根拠が全くないとほぼ断言できる。自衛のためでもなく、攻撃を正当化できる理由はない。

 これまではイスラエルによる単独の攻撃だったが、米国が公然と手を貸してしまった。「何でもあり」という次元の違う話になった。核施設をたたき壊した上で、イランに交渉に応じろと迫るのは、強者の力をむき出しにした論理になる。国際秩序のルールも破壊してしまった。

 ルールを無視すれば、ウクライナに侵攻したロシアも批判できなくなる。制御不能な状況が広がれば、世界大戦のようなシナリオにもなりかねない。仮にイランが屈しても、ヒズボラやフーシ派といった親イランの非国家主体の組織など、今回の行為を許せないというイスラム世界の人たちがいる。米国は憎悪、報復の火種をまいている。

 今のタイミングで攻撃した理由を推し量るのは難しい。トランプ米大統領の気分次第のようにも見受けられる。「ディール(取引)」と言っていたはずが、軍事攻撃に傾倒していった点に合理性がない。国内政治において岩盤支持層を意識して攻撃に踏み出したのかもしれないが、かえって支持層が剥がれていく可能性もある。

 その中で広島は何をするべきか。ルールは既に破られたからどうでもいいのではなく、ルール破りをきちんと指摘する必要がある。具体的には、イスラエルを含めて自分勝手に核兵器を持ってはいけないと訴える。弱肉強食で国際情勢は流れていくと諦めるのではなく、愚直に核兵器廃絶を訴えるのが広島の存在意義だ。(聞き手は新山創)

NPO法人ピースデポ 鈴木達治郎代表

NPT体制への影響深刻

 核拡散防止条約(NPT)に入らずに核兵器を保有するイスラエルに続いて、核大国の米国がNPTに加盟するイランの核施設を軍事攻撃したことは、断固非難されるべきだ。明らかに国際法違反であり、NPT体制への影響も深刻だ。

 自衛権の行使を超える攻撃は国連憲章に違反する。ジュネーブ条約の追加議定書は核施設について、市民に深刻な影響を与える可能性がある攻撃を禁じており、国際人道法の精神にも反する。

 確かにイランは、核兵器保有の意思はないと述べる一方、濃縮度60%のウランの保有を増やしている。「平和利用」で説明がつかず国際原子力機関(IAEA)と多くの国が疑念を持っている。

 だがウランを軍事転用している証拠を得るには至っていない。仮にイランが核不拡散義務に違反しているとなれば、IAEA理事会と国連安全保障理事会の非難決議を経て制裁を科すことになる。一方的な軍事攻撃はいずれにしろ違法だ。

 核施設への攻撃は、核兵器を得るまでの時間を遅らせても、その阻止はできない。危惧すべきはイランが核保有の意思をむしろ強め、NPTを脱退して核保有に走ること。サウジアラビアは、イランが保有するなら自国も、と公言している。かたや北朝鮮は、核兵器の保有とNPTからの脱退に踏み切ったのは正解だったと確信を深めるだろう。

 核保有国が増え、偶発的使用を含めいつ使われてもおかしくないという、恐ろしい世界になりかねない。被爆国として日本は、米国とイスラエルに抑制を訴え、イランにも核開発の疑念を払拭するよう求めるべきだ。被爆地からも、戦争と軍事力の行使は核問題の解決策にならないと訴え続けなければならない。(聞き手は金崎由美)

(2025年6月23日朝刊掲載)

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