天風録 『知られざる交流』
25年6月22日
長さ5センチ余りのさびた鉄のやじり。目を凝らすと特徴が分かる。「へ」の字の形に妙にくびれているのだ。平成前半に広島市安芸区で発掘された約1700年前の墓で19本発見された。収蔵庫で見せてもらったことがある▲矢の先に付ける小さな武具に深い意味があると聞いた。朝鮮半島との直接交流である。日本でめったに出土せず、鉄で栄えた古代朝鮮・伽耶(かや)の遺跡で同じ形が見つかった。葬られた広島の有力者に独自の交易ルートがあった―。専門家の推論がある▲墓の主はこのやじりを戦いに使わず、権威の象徴として大切にしたらしい。列島のあちこちで古来、朝鮮半島から海の道を通じて「ヒト」や「モノ」を受け入れたはずだ。敬意とともに▲友好、不幸を繰り返した日韓の国交正常化からきょうで60年を迎える。植民地時代の歴史認識を巡る不信感はなお残る。過去を直視する重みは忘れまい。広島でも朝鮮半島出身の人々が原爆に遭い、苦難の道を歩んだ▲千年単位の歴史を思うと信を寄せ合った歳月の方が長い。例えば大内氏や益田氏などの武将は朝鮮交易で豊かな文化を育んだ。未来へ手を携えるためにも、知られざる交流の足跡に目を凝らしたい。
(2025年6月22日朝刊掲載)
(2025年6月22日朝刊掲載)