社説 [地域の視点から] 原爆ドーム特別史跡へ 惨禍伝える使命大きく
25年6月21日
広島市の世界遺産、原爆ドームを特別史跡に指定するよう、文化審議会がきのう、文部科学相に答申した。地元としては喜ばしい。戦後80年の節目の年。被爆者が高齢化する中、「物言わぬ証人」として原爆の惨禍を伝え続ける役割が一段と重くなる。
文化財保護法では重要な遺跡が史跡に指定され、そのうち「学術上の価値が特に高く、わが国文化の象徴たるもの」が特別史跡となる。
これまでの特別史跡は古墳や城跡、寺跡など古い時代のものが多く、明治期以降の遺跡は原爆ドームが初めてとなる。近現代に対象が広がる第1弾として、核兵器がもたらした被害を伝える建物が選ばれたことには、大きな意義がある。
特別史跡になれば、より強い保護が受けられる。原爆ドームは1915年に広島県物産陳列館として完成してから110年がたつ。記憶の継承という面で、被爆した姿をできるだけとどめようとするのは当然だろう。だが、そのために構造が弱いまま、風雨にさらされてきた。
原爆ドームの保存は、国内の文化財として前例のないほど困難な課題といわれてきた。これまでも雨水や地震対策の工事は施されてきたが、いっそう最新の知見と技術を反映させてほしい。
市は少なくとも2045年の被爆100年までは現状保存を目指し、大規模改修は極力避ける方針だ。特別史跡の指定を機に、さらに長期的な視点で議論する必要があるのではないか。屋根の設置を求める声もある。保存を重視し、検討を重ねるべきだ。
原爆ドームは人類史上、初めて実戦で使われた核兵器によって被爆した。時代や国を超えて、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を訴え続ける人類共通の記念碑ともいえる。
ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルとイランの紛争など、核兵器が実際に使われかねない状況が眼前にある今だからこそ、改めて注目されるべきだ。単なる観光地ではなく、背景の歴史的な意義や平和への願いを多くの人に発信する工夫が求められる。
同時に、広島市に残る被爆建物全般をしっかり守っていく姿勢をいま一度、確認したい。原爆ドーム周辺のレストハウスや旧日本銀行広島支店など6件が昨年2月、「広島原爆遺跡」として史跡に指定された。
旧陸軍被服支廠(ししょう)も昨年1月、国の重要文化財に指定されている。軍都であり被爆地でもある広島の歴史を背負う重要な施設である。ただ、保有する県は維持費の確保に苦しんできた。どう活用していくかの議論も官民で活発に行われているとは言い難い。
原爆ドームは96年の世界遺産登録で、世界的に注目された。広島市内の他の被爆建物について、拡張登録を目指してはどうだろう。世界遺産に含まれる対象が増え、エリアが広がれば、地域としての発信力も高まるに違いない。
(2025年6月21日朝刊掲載)
文化財保護法では重要な遺跡が史跡に指定され、そのうち「学術上の価値が特に高く、わが国文化の象徴たるもの」が特別史跡となる。
これまでの特別史跡は古墳や城跡、寺跡など古い時代のものが多く、明治期以降の遺跡は原爆ドームが初めてとなる。近現代に対象が広がる第1弾として、核兵器がもたらした被害を伝える建物が選ばれたことには、大きな意義がある。
特別史跡になれば、より強い保護が受けられる。原爆ドームは1915年に広島県物産陳列館として完成してから110年がたつ。記憶の継承という面で、被爆した姿をできるだけとどめようとするのは当然だろう。だが、そのために構造が弱いまま、風雨にさらされてきた。
原爆ドームの保存は、国内の文化財として前例のないほど困難な課題といわれてきた。これまでも雨水や地震対策の工事は施されてきたが、いっそう最新の知見と技術を反映させてほしい。
市は少なくとも2045年の被爆100年までは現状保存を目指し、大規模改修は極力避ける方針だ。特別史跡の指定を機に、さらに長期的な視点で議論する必要があるのではないか。屋根の設置を求める声もある。保存を重視し、検討を重ねるべきだ。
原爆ドームは人類史上、初めて実戦で使われた核兵器によって被爆した。時代や国を超えて、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を訴え続ける人類共通の記念碑ともいえる。
ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルとイランの紛争など、核兵器が実際に使われかねない状況が眼前にある今だからこそ、改めて注目されるべきだ。単なる観光地ではなく、背景の歴史的な意義や平和への願いを多くの人に発信する工夫が求められる。
同時に、広島市に残る被爆建物全般をしっかり守っていく姿勢をいま一度、確認したい。原爆ドーム周辺のレストハウスや旧日本銀行広島支店など6件が昨年2月、「広島原爆遺跡」として史跡に指定された。
旧陸軍被服支廠(ししょう)も昨年1月、国の重要文化財に指定されている。軍都であり被爆地でもある広島の歴史を背負う重要な施設である。ただ、保有する県は維持費の確保に苦しんできた。どう活用していくかの議論も官民で活発に行われているとは言い難い。
原爆ドームは96年の世界遺産登録で、世界的に注目された。広島市内の他の被爆建物について、拡張登録を目指してはどうだろう。世界遺産に含まれる対象が増え、エリアが広がれば、地域としての発信力も高まるに違いない。
(2025年6月21日朝刊掲載)