広島と映画 <12> 俳優 八嶋智人さん 「惑星ラブソング」 監督 時川英之(2025年公開)
25年6月21日
平和を考え動き出そう
奈良市にある僕の実家は大仏様から歩いて10分ほど。悠久の時がゆったりと流れ、色濃く残る歴史を肌で感じます。
2012年から広島のテレビ番組で司会を始めて14年目。月に1度は広島を訪れています。NHK連続テレビ小説「マッサン」、映画「こいのわ婚活クルージング」「鯉(こい)のはなシアター」に出演したり、マツダスタジアムの大型ビジョンで広島東洋カープを毎試合応援したり。広島は第二の故郷になりました。
僕は広島を「外から」見続けてきました。平和を発信する都市、広島に生まれ育った皆さんにとって、平和に思いをはせることは、ごく当たり前の日常になっているように感じます。ただ一方、核兵器の恐ろしさが強調される平和学習に違和感を覚えたり、日々報じられる世界情勢を目の当たりにして「平和など絵に描いた餅だ」とうそぶいたりする若者もいます。「惑星ラブソング」の主人公モッチはそんな等身大の広島の男の子です。
舞台は「今」の広島。UFOや宇宙人が登場するファンタジーで、僕はUFO博士という不思議な役で出演しました。モッチは前向きに生きるアヤカを手伝う中で、外国人(らしき)ジョンと出会い、広島の街を散策します。やがて遠い日のジョンとの約束を思い出すモッチ。時空を超えて、被爆以前に存在したハイカラで豊かな広島を体験します。それは戦後復興を遂げ、豊かな都市に成長した現在の広島にも重なっていきます。
大きな課題を告げに来た宇宙人。果たして本当にフィクションなのか。宇宙人が告げなくても、現実世界はそれを感じているのではないか。「さあ、どうする」と観客に問いかけるようです。
時川英之監督が「重たく残酷な映像の表現を避けた」と語っていた通り、スクリーンに映る広島は美しい。でも、だから、むしろ。かつての豊かな広島が一瞬で奪われた事実と、復興して豊かになっても予断を許さない世界情勢による閉塞(へいそく)感が伝わるのでしょう。
「平和が好きですか」と問われれば、誰でも「好き」と答えるでしょう。しかし「なぜですか」とさらに問われれば、考えてしまいませんか。言語化するのは難しい。それは当たり前過ぎるから。でも考えましょう、一緒に。少しずつでも動き出しませんか。自分ができることから。そっと背中を押してくれるのです。
時のうねりが大きい奈良から見ると、広島は一度「なにか」が途切れてしまった。でも、歴史が途切れたわけじゃない。被爆以前と以後をちゃんとつなげようと、映画の登場人物たちはもう未来に向けて動き始めています。この映画を見て、時々反すうしていただけたなら、きっとホントの豊かな未来に進んでゆけると僕は思うのです。
◇
映画を愛する執筆者に広島にまつわる映画を1本選んで、見どころや思い出を紹介してもらいます。随時掲載します。
やしま・のりと
1970年、奈良市生まれ。90年、主宰である松村武らと劇団「カムカムミニキーナ」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画、バラエティー番組などで幅広く活動する。テレビ新広島の経済情報番組「そ~だったのかンパニー」出演中。奈良市観光特別大使を務める。
はと
1981年、大竹市生まれ。本名秦景子。絵画、グラフィックデザイン、こま撮りアニメーション、舞台美術など幅広い造形芸術を手がける。
作品データ
日本/102分/映画「惑星ラブソング」製作委員会
【脚本・編集】時川英之【撮影】アイバン・コバック【照明】村地英樹【録音】清水良樹【美術】部谷京子【音楽】佐藤礼央
【出演】曽田陵介、秋田汐梨、チェイス・ジーグラー、西川諄、ライム、谷村美月、佐藤大樹、川平慈英、さいねい龍二、塚本恋乃葉、西村瑞樹、横山雄二
(2025年6月21日朝刊掲載)