×

社説・コラム

天風録 『艦砲ぬ喰ぇー残さー』

 「てぃだ」は沖縄の言葉で太陽を指す。その昔はリーダーを表したという。全国で順次公開中の映画「太陽(ティダ)の運命」は米軍基地を巡り日本政府と激しく対立した沖縄県の元知事、大田昌秀さんと翁長雄志(おながたけし)さんを追う▲政治的立場の違いから反目した2人。その歩みや言葉は、沖縄を軽んじる政府と向き合ううち相似形をなしていく。原点には、80年前の凄惨(せいさん)な地上戦の記憶と、それを踏みにじられることへの怒りがあったに違いない▲劇中、象徴的に流れるのは沖縄民謡「艦砲ぬ喰(く)ぇー残(ぬく)さー」。米軍による艦砲射撃の食べ残しを意味し、沖縄戦の生き残りを指すのだという。一命を取り留めても心身に深い傷を負い、戦後を生きた人は少なくあるまい▲「あの戦の時に死んでおけば良かった」と言うからぼくも泣きたくなった―。きのう沖縄慰霊の日の式典で、詩を披露した小6の城間一歩輝(いぶき)さんのおばあちゃんもそんな一人ではないか▲詩の中で〈生きていてくれて本当にありがとう〉という孫に、おばあちゃんが答える。〈生き延びたから 命がつながったんだね〉。つながった命を再び戦火にさらすことがあってはならない。太陽(てぃだ)の下のいずこであっても。

(2025年6月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ