社説 沖縄戦80年 今も続く痛み 忘れまい
25年6月24日
20万人以上の命が失われた沖縄戦は、旧日本軍の組織的な戦闘が終わってからきのうで80年を迎えた。犠牲者の冥福を祈るとともに、不戦を誓い、惨禍を正しく伝えていく決意を新たにしたい。
「慰霊の日」に営まれた沖縄全戦没者追悼式。玉城デニー知事は平和宣言で「あまりに凄惨(せいさん)な沖縄戦の実相と教訓」が平和を求める県民の心の原点だと訴えた。当時の県民の4分の1が犠牲になった。沖縄にゆかりのない人たちも広く共有すべきだろう。
故・宮城喜久子さんは、女子生徒が看護要員で動員された「ひめゆり学徒隊員」として、16歳で味わった戦争体験を自著につづっている。
1粒のかびた玄米でしのいだ空腹、隣にいた友人や先輩が突然銃撃された恐怖と悲しみ、大勢が手りゅう弾で自決した直後の惨状…。投降しようとした日本兵が味方に撃たれたことなど、生々しい戦場の様子を克明に記した。何度読んでも胸がふさがれる。
ところが沖縄戦80年のことし、あろうことか国会議員の口から信じ難い言葉が飛び出した。犠牲となった学生たちを慰霊する「ひめゆりの塔」の展示説明を巡り、5月に自民党の西田昌司参院議員が「歴史を書き換えている」「むちゃくちゃな教育のされ方をしている」などと発言。撤回、謝罪に追い込まれた。
沖縄戦では旧日本軍が住民にスパイの疑いをかけて処刑したり、泣きやまない乳児を銃殺したりしたという証言も残る。こうした戦争の悲惨さを正しく伝えるのは「書き換え」ではあるまい。西田氏は「自分たちが納得できる歴史をつくらないと、日本は独立できない」とも言った。戦争の記憶の風化だけでなく、歴史をゆがめようとする動きにも目を光らせる必要がある。
言うまでもなく、次世代への継承も重要課題だ。沖縄戦を伝える県内の主要8施設の昨年度入館者数は約78万人と、この10年で約3割減ったという。少子化の影響もあるとはいえ、県外の子どもたちが実態に触れる機会を確保できるよう知恵を絞りたい。
沖縄の痛みは今なお続く。国内の米軍基地面積の7割が集中し、米兵による犯罪や騒音被害は後を絶たない。加えて近年は、対中国をにらんだ自衛隊の増強が南西諸島で進む。今春には有事の際に先島諸島の住民を九州や山口に避難させる計画もまとまった。
本土防衛の「捨て石」とされた80年前の再来を危ぶむ県民は多いだろう。トランプ米大統領の自国第一主義で日米同盟がきしむ中、政府は「中国脅威論」を冷静に見極めるべきだ。有事を回避するための重層的な対話や外交に努めてもらいたい。
玉城知事は広島、長崎と連携し、核軍縮と核兵器廃絶を国際社会に働きかける方針も明らかにした。追悼式に昨年ノーベル平和賞を受賞した日本被団協を初めて招いたのもその一環だろう。沖縄は琉球時代、アジアの架け橋として平和と友好を育む「万国津梁(ばんこくしんりょう)」の精神を掲げた歴史がある。被爆地も手を携え、平和の訴えを強めたい。
(2025年6月24日朝刊掲載)
「慰霊の日」に営まれた沖縄全戦没者追悼式。玉城デニー知事は平和宣言で「あまりに凄惨(せいさん)な沖縄戦の実相と教訓」が平和を求める県民の心の原点だと訴えた。当時の県民の4分の1が犠牲になった。沖縄にゆかりのない人たちも広く共有すべきだろう。
故・宮城喜久子さんは、女子生徒が看護要員で動員された「ひめゆり学徒隊員」として、16歳で味わった戦争体験を自著につづっている。
1粒のかびた玄米でしのいだ空腹、隣にいた友人や先輩が突然銃撃された恐怖と悲しみ、大勢が手りゅう弾で自決した直後の惨状…。投降しようとした日本兵が味方に撃たれたことなど、生々しい戦場の様子を克明に記した。何度読んでも胸がふさがれる。
ところが沖縄戦80年のことし、あろうことか国会議員の口から信じ難い言葉が飛び出した。犠牲となった学生たちを慰霊する「ひめゆりの塔」の展示説明を巡り、5月に自民党の西田昌司参院議員が「歴史を書き換えている」「むちゃくちゃな教育のされ方をしている」などと発言。撤回、謝罪に追い込まれた。
沖縄戦では旧日本軍が住民にスパイの疑いをかけて処刑したり、泣きやまない乳児を銃殺したりしたという証言も残る。こうした戦争の悲惨さを正しく伝えるのは「書き換え」ではあるまい。西田氏は「自分たちが納得できる歴史をつくらないと、日本は独立できない」とも言った。戦争の記憶の風化だけでなく、歴史をゆがめようとする動きにも目を光らせる必要がある。
言うまでもなく、次世代への継承も重要課題だ。沖縄戦を伝える県内の主要8施設の昨年度入館者数は約78万人と、この10年で約3割減ったという。少子化の影響もあるとはいえ、県外の子どもたちが実態に触れる機会を確保できるよう知恵を絞りたい。
沖縄の痛みは今なお続く。国内の米軍基地面積の7割が集中し、米兵による犯罪や騒音被害は後を絶たない。加えて近年は、対中国をにらんだ自衛隊の増強が南西諸島で進む。今春には有事の際に先島諸島の住民を九州や山口に避難させる計画もまとまった。
本土防衛の「捨て石」とされた80年前の再来を危ぶむ県民は多いだろう。トランプ米大統領の自国第一主義で日米同盟がきしむ中、政府は「中国脅威論」を冷静に見極めるべきだ。有事を回避するための重層的な対話や外交に努めてもらいたい。
玉城知事は広島、長崎と連携し、核軍縮と核兵器廃絶を国際社会に働きかける方針も明らかにした。追悼式に昨年ノーベル平和賞を受賞した日本被団協を初めて招いたのもその一環だろう。沖縄は琉球時代、アジアの架け橋として平和と友好を育む「万国津梁(ばんこくしんりょう)」の精神を掲げた歴史がある。被爆地も手を携え、平和の訴えを強めたい。
(2025年6月24日朝刊掲載)