天風録 『歴史的勝利とは…』
25年6月26日
初の金メダル獲得か、弱小チームが強豪を下したか。「歴史的勝利」というと、スポーツなどの劇的な試合が思われる。敗れた方はぼうぜん自失のはず。ところが今回は双方が「勝利」を叫ぶ。勝ったのは一体どっちか。いや勝者などいないのだ▲イスラエルとイランが停戦で合意した。すると両国首脳はそれぞれ「歴史的勝利」を宣言。ミサイルの応酬でイラン側では数百人が死亡。イスラエルでも数十人が犠牲になったのに。悲嘆に暮れる遺族に勝利などない▲わが国が勝ったと両方が声高なのは体面やメンツからだ。負けを認めれば、国内で批判が高まりかねない。軍事力で圧倒するイスラエルでも、首相が政治的な窮地を乗り切るためイラン攻撃に出たという見方も▲米大統領トランプ氏がほくそ笑む。停戦は自らの手柄と言わんばかり。イランの核開発施設を米軍機が爆撃したことで平和の時が訪れたとSNSで発信。「世界中のみなさん、おめでとう」とも。どういう感覚なのか▲イランには核兵器を断じて持たせない―。核を持っている米国とイスラエルがねじ伏せた。とはいえ誰も勝ってはおらず、平和は遠い。人類にとって歴史的勝利とは核廃絶だから。
(2025年6月26日朝刊掲載)
(2025年6月26日朝刊掲載)