[2025参院選 現場から] 原子力関連施設の誘致 小規模自治体、国策に翻弄 核ごみ行き先 見通せぬまま
25年7月3日
「島根県知事にこれほど強く反対されるとは…。計画を諦めざるを得ない状況がつくられた」。益田商工会議所(益田市)の松永和平会頭(71)はそう語り、5月の「騒動」を振り返った。
反対を受け撤回
騒動とは―。松永会頭たち地元経済界の有志が、原発由来の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定の「文献調査」受け入れを益田市議会へ働きかけることを水面下で計画。しかし、丸山達也知事たちの猛反発に遭い、表面化して約1週間で白紙撤回を余儀なくされた。
周囲には余波が広がった。同商議所は来客があるたびに「今回の動きは、うちとは一切関係ありません」と説明に追われた。JAしまね西いわみ地区本部も「計画には反対。風評被害を心配せず農産物を作って」と農家を回ったという。
「核のごみ」の処分場選定は国の長年の課題だ。安全に数万年も保管できる場所は見つからず、原発は「トイレなきマンション」と批判されてきた。益田市の経済界のように検討に手を挙げる動きが出ても周囲の反対で頓挫する例が相次ぐ。一方で国は「原発回帰」を強める。核のごみの行き先が見通せないまま、原発の活用が進む矛盾が続く。
原子力政策を巡っては、小さな自治体が矢面に立つ構図がある。中国電力が使用済み核燃料の中間貯蔵施設を検討する山口県上関町も同様だ。
本来、原発から出る使用済み核燃料は、燃料プールで数年冷やされた後、青森県六ケ所村の再処理工場へ運ばれる計画だった。ただ国策の中核である同工場は着工から30年余り過ぎても未完成。このため、核燃料の「一時的な保管場」として中間貯蔵施設が急きょ必要になった形だ。
地元民意割れる
誘致を巡って地元の民意は割れている。「国策に協力すれば、交付金で町財政は改善する」と賛成する声もある一方、同町祝島の木村力さん(78)は「核のごみの問題が解決していない。一時的でなく、永久的な貯蔵になりかねない」と反対する。
上関町は今後、町と町議会が主体的に、新設を認めるかどうか決める考え。「上関町にとって、原発や中間貯蔵の是非を問う選挙」。西哲夫町長はこう述べ、今回の参院選は民意を捉えるバロメーターと位置づける。
一方、周辺市町からは懸念の声も上がる。「上関町だけで決めていいのか」と同町への不信感を示す首長もいる。
近隣市町を巻き込み、懸念と分断を生む中間貯蔵施設。宙に浮く核のごみの処分場。その一方で進む原発回帰…。小さな自治体は翻弄(ほんろう)され、エネルギー政策を担う国の責任を問う声は日増しに高まっている。(永井友浩、加田智之、編集委員・東海右佐衛門直柄)
最終処分場と中間貯蔵施設
原発の使用済み核燃料を再処理した後、その廃液をガラスで固めて地下深くの岩盤に埋めることを「最終処分」という。強い放射線を出すため、国は数万年以上隔離する方針。処分場の選定を巡っては2020年に北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、24年に佐賀県玄海町で第1段階の「文献調査」が始まった。「中間貯蔵施設」は、使用済み核燃料を再処理するまでの間、地上で一時保管する施設。青森県むつ市で24年9月に施設が稼働。山口県上関町でも新設が検討されている。
(2025年7月3日朝刊掲載)
反対を受け撤回
騒動とは―。松永会頭たち地元経済界の有志が、原発由来の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定の「文献調査」受け入れを益田市議会へ働きかけることを水面下で計画。しかし、丸山達也知事たちの猛反発に遭い、表面化して約1週間で白紙撤回を余儀なくされた。
周囲には余波が広がった。同商議所は来客があるたびに「今回の動きは、うちとは一切関係ありません」と説明に追われた。JAしまね西いわみ地区本部も「計画には反対。風評被害を心配せず農産物を作って」と農家を回ったという。
「核のごみ」の処分場選定は国の長年の課題だ。安全に数万年も保管できる場所は見つからず、原発は「トイレなきマンション」と批判されてきた。益田市の経済界のように検討に手を挙げる動きが出ても周囲の反対で頓挫する例が相次ぐ。一方で国は「原発回帰」を強める。核のごみの行き先が見通せないまま、原発の活用が進む矛盾が続く。
原子力政策を巡っては、小さな自治体が矢面に立つ構図がある。中国電力が使用済み核燃料の中間貯蔵施設を検討する山口県上関町も同様だ。
本来、原発から出る使用済み核燃料は、燃料プールで数年冷やされた後、青森県六ケ所村の再処理工場へ運ばれる計画だった。ただ国策の中核である同工場は着工から30年余り過ぎても未完成。このため、核燃料の「一時的な保管場」として中間貯蔵施設が急きょ必要になった形だ。
地元民意割れる
誘致を巡って地元の民意は割れている。「国策に協力すれば、交付金で町財政は改善する」と賛成する声もある一方、同町祝島の木村力さん(78)は「核のごみの問題が解決していない。一時的でなく、永久的な貯蔵になりかねない」と反対する。
上関町は今後、町と町議会が主体的に、新設を認めるかどうか決める考え。「上関町にとって、原発や中間貯蔵の是非を問う選挙」。西哲夫町長はこう述べ、今回の参院選は民意を捉えるバロメーターと位置づける。
一方、周辺市町からは懸念の声も上がる。「上関町だけで決めていいのか」と同町への不信感を示す首長もいる。
近隣市町を巻き込み、懸念と分断を生む中間貯蔵施設。宙に浮く核のごみの処分場。その一方で進む原発回帰…。小さな自治体は翻弄(ほんろう)され、エネルギー政策を担う国の責任を問う声は日増しに高まっている。(永井友浩、加田智之、編集委員・東海右佐衛門直柄)
最終処分場と中間貯蔵施設
原発の使用済み核燃料を再処理した後、その廃液をガラスで固めて地下深くの岩盤に埋めることを「最終処分」という。強い放射線を出すため、国は数万年以上隔離する方針。処分場の選定を巡っては2020年に北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、24年に佐賀県玄海町で第1段階の「文献調査」が始まった。「中間貯蔵施設」は、使用済み核燃料を再処理するまでの間、地上で一時保管する施設。青森県むつ市で24年9月に施設が稼働。山口県上関町でも新設が検討されている。
(2025年7月3日朝刊掲載)