緑地帯 イシズマサシ モメント・イン・ピース 平和的瞬間⑦
25年7月8日
子どもなんていらない、などと考えたこともないのに、子どもがいない。欲しいと声高に言ったこともない。そのうち向こうからやって来るものだと安易に考えていると、気づけば50歳を過ぎていた。真剣に考え始めた時には妻もそこそこ高齢で、そう簡単にはいかなかった。
それでも無理だとは思わなかった。そして52歳で1児を授かることに。新しくできた小さな家族を抱え、生まれてはじめての感動に胸を詰まらせた。世界中の赤ちゃんが無事に生まれてきますようにと、本気で思ったほどだ。そして、この年で育児経験ができる喜びに胸を高まらせた。と、浮かれているのもつかの間、一気にいろいろな試練が押し寄せてきた。特に夜泣きは大変だった。歌う、揺らす、夜風に当てるも、すぐに効き目がなくなり、途方に暮れる日々だった。睡眠不足でこちらの疲労も限界に達する頃、いらついて怒鳴りたい衝動に駆られることも幾度かあった。
そんな時、赤ん坊の目を見た。まだ世界のことを何も知らず、はっきりと見えてもいない。ただただ世界は不安に満ちている。ふと、今この子には、世界がこう見えているのではないかと想像してみた。あれこれ考えているうちに楽しくなってきて、気持ちにゆとりができ始めた。そして夜泣きが待ち遠しくなった。赤ん坊が泣いている時間は、こちらが泣きたくなるほど愛(いと)しい時間なのだ。絵本「どうして そんなに ないてるの?」は、こうして生まれた。(作家=東京都)
(2025年7月8日朝刊掲載)
それでも無理だとは思わなかった。そして52歳で1児を授かることに。新しくできた小さな家族を抱え、生まれてはじめての感動に胸を詰まらせた。世界中の赤ちゃんが無事に生まれてきますようにと、本気で思ったほどだ。そして、この年で育児経験ができる喜びに胸を高まらせた。と、浮かれているのもつかの間、一気にいろいろな試練が押し寄せてきた。特に夜泣きは大変だった。歌う、揺らす、夜風に当てるも、すぐに効き目がなくなり、途方に暮れる日々だった。睡眠不足でこちらの疲労も限界に達する頃、いらついて怒鳴りたい衝動に駆られることも幾度かあった。
そんな時、赤ん坊の目を見た。まだ世界のことを何も知らず、はっきりと見えてもいない。ただただ世界は不安に満ちている。ふと、今この子には、世界がこう見えているのではないかと想像してみた。あれこれ考えているうちに楽しくなってきて、気持ちにゆとりができ始めた。そして夜泣きが待ち遠しくなった。赤ん坊が泣いている時間は、こちらが泣きたくなるほど愛(いと)しい時間なのだ。絵本「どうして そんなに ないてるの?」は、こうして生まれた。(作家=東京都)
(2025年7月8日朝刊掲載)