緑地帯 イシズマサシ モメント・イン・ピース 平和的瞬間⑧
25年7月9日
わが子が5歳の頃、バレエを始めた。当初は「男のくせに」とからかわれ、厳しいレッスンについていけず玄関先で涙ぐむこともあった。私は「がんばれ」と声をかける代わりに「ぼくはダンサー」という絵本を描いた。自信がなく不安を抱えたままステージに上がった男の子が、自分を取り戻すまでを一演目にのせて描いたお話である。
この演目をボレロにしたのは、かつて私が20歳のとき、映画「愛と哀(かな)しみのボレロ」のジョルジュ・ドンに感銘を受けたからだ。振付家モーリス・ベジャールのことも、その時知った。物語の中で、バックダンサーは「バレエの神様」という設定にした。実際息子が通うバレエスタジオでは「バレエの神様にあいさつを」とか「気を抜かないで。バレエの神様が見ているよ」というようにバレエの神様が始終飛び交う。精神的な支えや、己を戒める象徴として用いられているのだろうが、これが本当にいると思えてくる。
2023年に絵本を刊行後、日本で唯一ベジャールの振り付けでボレロを踊ることを許されている東京バレエ団の、コレオグラフィック・プロジェクトのダンサーたちとコラボ展をやることになった。さらにモーリス・ベジャール・バレエ団が来日した際、公演でボレロを踊った芸術監督のジュリアン・ファヴロー氏に直接この絵本を手渡すことができた。感無量。バレエの神様はきっといる。私はモメント・イン・ピースな旅の中で、わが子ともども今も踊っている。 (作家=東京都)=おわり
(2025年7月9日朝刊掲載)
この演目をボレロにしたのは、かつて私が20歳のとき、映画「愛と哀(かな)しみのボレロ」のジョルジュ・ドンに感銘を受けたからだ。振付家モーリス・ベジャールのことも、その時知った。物語の中で、バックダンサーは「バレエの神様」という設定にした。実際息子が通うバレエスタジオでは「バレエの神様にあいさつを」とか「気を抜かないで。バレエの神様が見ているよ」というようにバレエの神様が始終飛び交う。精神的な支えや、己を戒める象徴として用いられているのだろうが、これが本当にいると思えてくる。
2023年に絵本を刊行後、日本で唯一ベジャールの振り付けでボレロを踊ることを許されている東京バレエ団の、コレオグラフィック・プロジェクトのダンサーたちとコラボ展をやることになった。さらにモーリス・ベジャール・バレエ団が来日した際、公演でボレロを踊った芸術監督のジュリアン・ファヴロー氏に直接この絵本を手渡すことができた。感無量。バレエの神様はきっといる。私はモメント・イン・ピースな旅の中で、わが子ともども今も踊っている。 (作家=東京都)=おわり
(2025年7月9日朝刊掲載)