コンクリ船建造 戦時下の企業人 東広島の漫画家 村上たかしさん連載 国民の「戦争責任」へまなざし
25年7月10日
太平洋戦争中の深刻な鉄不足の折、旧海軍が窮余の策で造らせた輸送船はコンクリート製だった。今、呉市安浦町で防波堤としての役割を果たす「武智丸」。東広島市の漫画家村上たかしさん(60)が、その建造に携わった人々を描く「コンクリートの船」の連載を漫画誌で始めた。難題に立ち向かう企業人の奮闘を物語の軸に据えながら、無謀な戦争に加担した国民の「戦争責任」にまなざしを向ける。(栾暁雨)
安浦町の三津口湾で波に洗われる2隻の武智丸は、かつて軍需物資を旧呉海軍工廠(こうしょう)に運ぶ貨物船だった。海軍から建造を請け負ったのは大阪で土木会社を経営していた武智正次郎氏。漫画の主人公のモデルになった人物だ。
序盤の舞台は戦前の大阪。くい打ち技術で会社を急成長させた敏腕社長の「武田」が、戦争で仕事が激減する中、若い海軍将校と出会う。社員を路頭に迷わせないため、泥船と揶揄(やゆ)されたコンクリ船の実現に向けまい進する。併せて、戦争に突き進む社会のムードも描き込む。
「星守る犬」などのヒット作がある村上さんは15年ほど前、ロケハンで安浦を訪れ、武智丸に出合った。「この不思議な船は何なのかと。いつか描きたいと思っていた」
抱えていた連載を終えた2年前、リサーチに乗り出す。しかし資料は少なく、武智氏を直接知る人もわずか。旧安浦町史や書籍を参考に、史実に基づくフィクションという形で構想を練った。人物像に迫れなかった分、想像力を膨らませたキャラクター造形ができたという。
その一つが船の建造を引き受けた理由。書籍には「お国のため」と記されているが、作中では「従業員を守るため」とした。村上さんは「身近な人を戦死させないためにできることを考えたんじゃないかな」と想像し、主人公の武田にはこんなせりふを言わせた。「軍属扱いになって軍の船を造っている間は戦地に行かんで済む」
同調圧力と相互監視が広がった時代。海外で仕事をした経験がある武智氏のように、米国の国力を知る人物でも戦争に異を唱えられなかった。村上さんは、同じ雰囲気をロシアのウクライナ侵攻でも感じるという。
「プーチン氏を支持するロシア国民に戦争責任はないのか。太平洋戦争でも免責されるべき事情もあるが、国民にまったく責任がないとは言いきれない」。ただ作中では強い主張は抑えた。「説教くさい漫画にはしたくない。エンタメを通じて80年前を考えるきっかけになれば」と願う。
「コンクリートの船」は、ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載中。
武智丸
太平洋戦争開戦後、鉄鋼不足に陥り計画された。兵庫県高砂市の塩田跡にドックを築いて4隻造られ、エンジンを搭載した国内初の自走式コンクリ船として石炭などを運んだ。1944年に完成した第1は呉、第2は横須賀、第3は佐世保の各鎮守府に配属された。第4は就役前に終戦を迎えた。
(2025年7月10日朝刊掲載)
安浦町の三津口湾で波に洗われる2隻の武智丸は、かつて軍需物資を旧呉海軍工廠(こうしょう)に運ぶ貨物船だった。海軍から建造を請け負ったのは大阪で土木会社を経営していた武智正次郎氏。漫画の主人公のモデルになった人物だ。
序盤の舞台は戦前の大阪。くい打ち技術で会社を急成長させた敏腕社長の「武田」が、戦争で仕事が激減する中、若い海軍将校と出会う。社員を路頭に迷わせないため、泥船と揶揄(やゆ)されたコンクリ船の実現に向けまい進する。併せて、戦争に突き進む社会のムードも描き込む。
「星守る犬」などのヒット作がある村上さんは15年ほど前、ロケハンで安浦を訪れ、武智丸に出合った。「この不思議な船は何なのかと。いつか描きたいと思っていた」
抱えていた連載を終えた2年前、リサーチに乗り出す。しかし資料は少なく、武智氏を直接知る人もわずか。旧安浦町史や書籍を参考に、史実に基づくフィクションという形で構想を練った。人物像に迫れなかった分、想像力を膨らませたキャラクター造形ができたという。
その一つが船の建造を引き受けた理由。書籍には「お国のため」と記されているが、作中では「従業員を守るため」とした。村上さんは「身近な人を戦死させないためにできることを考えたんじゃないかな」と想像し、主人公の武田にはこんなせりふを言わせた。「軍属扱いになって軍の船を造っている間は戦地に行かんで済む」
同調圧力と相互監視が広がった時代。海外で仕事をした経験がある武智氏のように、米国の国力を知る人物でも戦争に異を唱えられなかった。村上さんは、同じ雰囲気をロシアのウクライナ侵攻でも感じるという。
「プーチン氏を支持するロシア国民に戦争責任はないのか。太平洋戦争でも免責されるべき事情もあるが、国民にまったく責任がないとは言いきれない」。ただ作中では強い主張は抑えた。「説教くさい漫画にはしたくない。エンタメを通じて80年前を考えるきっかけになれば」と願う。
「コンクリートの船」は、ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載中。
武智丸
太平洋戦争開戦後、鉄鋼不足に陥り計画された。兵庫県高砂市の塩田跡にドックを築いて4隻造られ、エンジンを搭載した国内初の自走式コンクリ船として石炭などを運んだ。1944年に完成した第1は呉、第2は横須賀、第3は佐世保の各鎮守府に配属された。第4は就役前に終戦を迎えた。
(2025年7月10日朝刊掲載)