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社説・コラム

社説 ’25参院選 核兵器禁止条約 争点として積極的に論じよ

 相次ぐ戦火の中で、核を巡る世界情勢は危機的状況にある。核保有国ロシアやイスラエルによる暴挙がやまないばかりか、先月にはイスラエルに続いて米国がイランの核施設を攻撃し、核兵器の使用に懸念が高まった。今こそ被爆の実情を知る日本が存在感を示すべきときである。

 にもかかわらず、被爆80年に迎えた参院選で核兵器廃絶に向けた議論が盛り上がっていない。人類の未来を左右する大きな争点である。各政党や候補者は、自らの考えや政策を積極的に示し、論じるべきだ。

 各党、各候補者は核兵器廃絶に向け、どのような考えを持ち、政策を進めるのか。それを端的に表すのが、核兵器禁止条約への姿勢である。

 2021年に発効したこの条約は、核兵器が人類にもたらした苦しみに目を向け、開発から製造、使用、威嚇まで一切を「違法」とする国際的取り決めだ。すでに94カ国・地域が署名、73カ国・地域が批准している。

 しかし、保有国やその「核の傘」に頼る国は条約に背を向ける。際立っているのが、「唯一の戦争被爆国」「保有国と非保有国の橋渡し役」をうたう日本政府である。

 条約の締約国が集まって条約の履行状況などを検討する締約国会議に、オブザーバー参加しようともしない。広島と長崎の被爆者や首長、市民が粘り強く働きかけたが、被爆80年の節目のことしも参加しなかった。こんなことでいいのか。日本のかじ取りをする国会議員が条約にどう向き合うかは、自国のみならず、地球の未来を左右することを自覚すべきだ。

 参院選の公示前、日本記者クラブが開いた討論会で、石破茂首相は「核兵器のない世界を目指す一方、米国が核を含む戦力で日本防衛に関与する『拡大抑止』の信頼性を確保する必要がある。それが責任ある政治だ」と述べた。核兵器なき世界を掲げつつ、核抑止を信奉するのは、明らかに矛盾している。

 公明党は、条約締約国会議にオブザーバー参加することを「強く求める」とし、立憲民主党も「オブザーバー参加します」と掲げる。共産党は「『核抑止』から抜け出し、核兵器禁止条約に参加する政府を」、社民党は「早期批准を求め、核なき世界と被爆者問題の政治解決を実現」。れいわ新選組は「ただちに批准し、『核なき世界』の先頭に立つ」としている。

 自民党は「核兵器のない世界へ向け、現実的かつ実践的な取組みを進めます」としながら、条約には触れていない。批准こそが実践的な行動であるのに。

 被爆地では公示前、市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)が、広島選挙区の立候補予定者を対象に、核政策に関するアンケートを実施した。結果をホームページで公開している。有権者にとって、参考材料の一つになるはずだ。

 それぞれの候補や政党がどう考え、行動するつもりか。われわれ有権者もしっかり見極めなくてはならない。

(2025年7月13日朝刊掲載)

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