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社説・コラム

社説 ’25参院選 「原発回帰」政策 なし崩しで進むのは危うい

 参院選の後半に至っても、一向に論戦が盛り上がらない。政府・与党が「原発回帰」を明確に打ち出したエネルギー政策の是非である。

 全電源構成の4分の1に上っていた原発への依存は、東京電力福島第1原発事故を機に見直し、2014年に発電量ゼロになった。だが、岸田政権で原発を最大限活用する方針に転換し、石破政権が今年2月にエネルギー基本計画を改定。現状は1割足らずの原発依存度を40年度に2割程度まで上げるとした。

 問題は、国民的な議論がないまま原発回帰へと突き進む危うさだ。今回の参院選はその是非を問う格好の機会だが、争点としては脇に押しやられてしまった。

 与党に加えて複数の野党が原発の再稼働や次世代型の開発を主張する。だが、再利用できない高レベル放射性廃棄物や使用済み核燃料の行方にはどの党も解決策を示していない。「トイレのないマンション」に例えられる原発政策をなし崩しで押し進めるのは、無責任ではないか。

 中国地方は一つの縮図だ。中国電力の島根原発(松江市)は全国で唯一、県庁所在地にあり、30キロ圏内の人口も44万人と3番目に多い。各政党は机上の被害想定ではなく、生身の住民が避難する際の現実的な危険にまで神経をとがらせているだろうか。

 「核のごみ」の問題も不透明だ。島根原発2号機が昨年12月に再稼働したものの、使用済み核燃料を貯蔵する燃料プールは10年ほどで満杯になるとみられている。搬出先となる青森県六ケ所村の再処理工場は、着工から30年余りが過ぎても未完成のままだ。

 中電は対策として、原発計画がある山口県上関町で中間貯蔵施設の建設を検討、調査に乗り出している。施設ができれば島根原発分だけでなく、関西電力管内からも運ばれる見込みだ。中間貯蔵が事実上の最終処分場になる可能性が残る以上、上関町だけで決められる問題ではない。

 益田市では経済界の有志が高レベル放射性廃棄物の最終処分場の文献調査の受け入れを求め、知事らの猛反発を受けて撤回する騒動があった。過疎に悩む自治体が、交付金という「原発マネー」と引き換えにリスクを背負う―。多くの分断やしこりも生んできた旧来の原発政策を、根本から見直すべき時ではないか。

 言うまでもなく、原発回帰が進んだ背景には「脱炭素」という国際課題が横たわっている。しかし、地震大国として一度は掲げた「脱原発社会」は重い政治判断であり、多くの国民の願いでもあったはずだ。国難に直面した14年前の教訓を思い起こしたい。

 与党も原発ゼロを掲げる野党も、再生可能エネルギーの拡大を目指す点ではほぼ一致する。ならば太陽光や風力、地熱といった発電分野でどう技術革新を促すかのビジョンや政策を競ってもらいたい。

 生成人工知能(AI)の普及に伴い、データセンターや半導体工場などの電力需要は伸びる見通しだ。安易な原発回帰で再エネ拡大の機運をしぼませてはならない。

(2025年7月15日朝刊掲載)

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