×

ニュース

[被爆80年] 原爆供養塔7万人遺骨 大多数 名前も分からぬまま DNA型鑑定困難 現状は情報提供が頼り

 約7万人分とされる原爆犠牲者の遺骨が眠る平和記念公園(広島市中区)の原爆供養塔。「あの日」から80年を迎える中、大多数は名前さえ分からぬまま、事実上、永久安置されている。いまだ遺族が手にできていない多くの遺骨が含まれているが、DNA型鑑定による特定も難しい。「供養塔に参ることしかできない無念さも原爆被害だ」。遺族は訴える。(下高充生)

 その形から「土まんじゅう」とも呼ばれる供養塔の北側に、地下へと続く入り口がある。中に入ると、中央の祭壇を囲むように白い棚がある。名前が判明しながら引き取り手が見つかっていなかったり、遺族が永久安置を望んだりした1435人分の個別の骨つぼが並ぶ。直近10年で遺族が特定されたのは6人だ。

 一方、残りの大多数の遺骨は大小178個の木箱などに納められている。一部には「氏名不詳」と書かれ、「広瀬、中広方面」「白島方面」など地名が書かれた箱も。市は骨片でみると、百万や千万といった膨大な単位に上るとみており、「身元の特定に結び付けるすべがない」という。

 会社員の渡辺将一郎さん(45)=佐伯区=は、妻の曽祖母が爆心地の島病院(現中区)に入院中、被爆死した。遺骨は見つかっておらず、供養塔にあるのではないかと考えている。特定につなげたいと、市に遺骨のDNA型鑑定ができないか問い合わせてきた。

 ただ、市によると、2020年に遺骨の返還に関連し専門家に問い合わせたところ、焼骨の鑑定は難しいと言われたという。島根大医学部の竹下治男教授(法医学)も取材に「焼かれた骨からのDNAの抽出は難易度が高い」と指摘する。焼かれていない骨であっても、血液と比べ抽出のための処理が複雑になる。

 市はDNA型鑑定はしない考え。名前が分かる遺骨について、関係者からの情報提供を手がかりに遺族を特定し、返還を目指すのが現状だ。

 渡辺さんは「80年たった今も身元不明の遺骨が手付かずのまま残されていることこそ核兵器の非人道性だ。被爆者が減る中、原爆の現実を知る場所として皆に訪れてほしい」と強調。同じ公園内の原爆ドームや原爆慰霊碑に比べ、供養塔を訪れる人が少なく、市による周知の強化を求める。

 戦没者の遺骨を巡っては、国は第2次世界大戦の激戦地となったアジアや太平洋、沖縄などで戦没者の身元の特定に取り組んでいる。16年には遺骨収集を国の責務とする戦没者遺骨収集推進法も施行。ただ、民間人を多く含む原爆や空襲による死者は対象としていない。

(2025年7月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ