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子どもから見た戦争 リアルに 画家・絵本作家の堀川理万子さん 17人と対話「今を考えるきっかけに」

 80年前まで日本がしていた戦争は、今や多くの人たちにとって実感を伴わない「遠い過去のこと」かもしれない。でも本当にそうだろうか。画家・絵本作家の堀川理万子さん(59)がこの夏、大部の絵本を完成させた。広島・長崎など全国各地を歩き、子ども時代に戦争を体験した17人に聞き取りを重ねて絵と文に。子どもが語っているようなスタイルで、日常の中に存在した戦争をリアルに表現している。(論説委員・森田裕美)

 小峰書店(東京)から刊行されたのは、「いま、日本は戦争をしている―太平洋戦争のときの子どもたち」。オールカラー128ページに及ぶ本書は、絵本と呼ぶには戸惑うほど、ずしりと重い。

 北は樺太から南は沖縄まで、日ソ戦争や米軍による空襲、原爆、沖縄戦など、全国各地で子どもたちがさらされた「戦争」を、柔らかな筆触で描く。「戦時下の日常をリアルにイメージしてほしい」と、悲惨な体験ばかりでなく、さまざまな記憶の断片を60編以上のエピソードにまとめた。

 戦後の知識をもって、歴史を俯瞰(ふかん)するような表現は排し、戦争の中に暮らした子どもの視点に徹した。方言も交え、子どもの語りで表現した文は、戦争が今と隔てられた特別な世界にあったのではなく、地続きに存在したことを浮かび上がらせる。

 堀川さんが制作に着手したのは4年前。コロナ禍に「東京裁判」の記録映画を見たのがきっかけだった。戦争がもたらした不条理を痛感し、「こうした記憶を残すために何かしなくてはと思った」。

 ちょうど公募のコンクールに出したいという思惑もあり、自身の父に日米開戦時の様子を聞いて絵と文にした。それを手始めに本格的に戦争について調べ、体験者を取材。知人のつてで市井の人を紹介してもらい、自然体の話を聞いた。

 それまで「命とか戦争とか重いテーマはなるべく触らずに創作をしてきた」という堀川さん。だが体験者の声に耳を傾け、対話を重ねながら自らの絵と言葉で表現していく作業は「背骨が固められていくようだった。世界で起きている現在の戦争についても考えるようになった」と語る。

 心がけたのは教条的にならないこと。「自分も昔、勉強や説教のにおいのする本は避けたかったから」。子どもたちに戦争を身近に捉えてほしくて、「今と同じ」と思えるような「素の子どもの言動」を大切にした。

 例えば広島で被爆3日後に運行再開した市電に、車掌として乗務した笹口里子さん(4月に94歳で死去)の章では、被爆後に逃げた先で鉄棒を見つけ、思わず遊んだエピソードもつづる。

 爆心直下の町に自宅があり、疎開先できのこ雲を見た今中圭介さん(89)の少年時代の記憶もつぶさに描いた。

 取材を通して強く感じたのは、80年たった今なお、当時の子どもの多くが心に傷を抱えていること。「まだ戦争は終わっていない。小さな子どもに一生の負荷をもたらした戦争に怒りが湧いた」と堀川さん。「これだけ平和がもろくなっている時代。日常の暮らしの延長線上にある戦争を想像し、考えるきっかけにしてほしい」と願う。

 A4変型判、4180円。25日から8月27日まで、廿日市市のはつかいち市民図書館で、原画の一部が展示される。

  (2025年7月18日朝刊掲載)

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